第35話 やっぱり男は顔らしい

 ドゴ! ドゴ!


 なんかさ、さっきから椅子を蹴られてます。椅子を蹴り上げられてるんだけど、一緒に机まで揺れて……ゆ、揺れ……て……


 ドゴ!


 ほら、また。もちろん蹴っているのは清隆きよたか。こいつ、クラスが違うくせに、休み時間になるたびに俺のクラスに来て……それこそさ、チャイムが鳴ったと思ったら数秒後に現われやがるんだぜ。そんでもって強引に後ろの席の奴を押しのけてすわって、俺の椅子を下から蹴り上げます。力尽くで押しのけてるもんだから、後ろの席の奴、教科書やノートも片付けられなくてそのまんま。


 ドゴ!


 いや、痛くはないんだけどさ、やめてくんない? 落ち着けないんですけど。落ち着いてノートを写せないんですけど。椅子を蹴り上げられてるんだけど、一緒に机まで揺れて……ゆ、揺れ……て……字が……嗚呼、はみ出た! 字が変なとこにはみ出ちゃったじゃないか! 字が波打ってるっていうか、蹴られたタイミングの文字が飛び上がって、こうジャンプしてる感じ? まぁつまりぐちゃぐちゃだよ。

 ちょっと清隆君、なんで邪魔するんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ。


 ……いや、言わなくていい


 うん、わかってる。言いたいことはわかってる。だから言わないでくれ。たぶん清隆なりに我慢してるんだよな、言いたいことを。で、言う代わりに椅子蹴ってるわけなんだけど、出来たら蹴るのもやめてくれない? もうさ、俺、さっきからずっと、お前が教室に来てからずっと、お前が教室に来るたびにクラスの女子に睨まれっぱなしなんですけど。すっげぇ怖くてさ、クラスの男子まで俺のことを避けてるんですけど。なんか空恐ろし現顔をして、俺のことを遠巻きに見てるんですけど。


 このまま虐められたらどうするんだよ?


 いや、もう今の状態でも十分に村八分っぽい。そんな感じになってる。頼めばノートは貸してくれたけどさ、お前が教室に入ってきた瞬間、なんかさ、教室の温度が3℃くらい下がるんだけど。ちょっと肌寒いんだけど。

 学校サボって母さんの会社行って、話が終わってすぐに戻って登校したのはいいんだけど、清隆の奴、ずっとこんな調子。もう勘弁してくれよ。お前さ、小学生じゃないんだから物に当たるのやめろよ。


 俺に当たるのもやめてくれ


 俺が学校をサボって、先生や母さんが怒るならわかるんだけど、なんでお前が怒るわけ? 俺さ、そこんとこがすっげぇわからないんだけど。すっげぇ疑問なんだけど。しかも、代わりじゃないけど、先生も母さんも全然怒らないんだよね。


 なんで?


 遅れて登校した学校は3時間目の最中で、そっから授業に参加。1時間目、2時間目、3時間目のノートをクラスの奴に借りて写してたんだけど、やってきた清隆がずっとこの調子でさ。もうなんなのか俺にもさっぱり。兄貴の俺にわかんないんだ、クラスの奴になんて絶対理解出来ないよな。なんかみんな、遠巻きに俺たち兄弟を見てやんの。


 俺たちは動物園のパンダか?


 チャイムが鳴るたびにやってきて、後ろの席にすわって椅子を蹴り続ける。そんでもってチャイムが鳴ると自分の教室に戻る。すると教室の温度が3℃くらい上がって、ちょっと蒸す。

 女子の睨みは変わらないないんだけど、清隆が教室を出て行くと男子は元に戻る。そんで俺に 「清隆と喧嘩してるのか?」 とか、最近遅刻や居眠りが多いことを心配してくれる。いやぁ友情っていいよなぁ、さっきまで知らん顔されてたけど。この掌の返し具合がなんともいえない。


「お前が来るとさ、俺、クラスの女子に睨まれんの。だから来るな」


 晩飯の時、とうとう清隆に言ってやった。そうしたら、どうしてか母さんが大笑いを始めて、清隆はすっげぇ胡乱そうに眉間にしわを寄せやんの。それで俺を上目遣いに睨む……ってなに、その反応は。俺、なんかおかしなこと言った?


「お前、馬鹿?」


 言っとくけど、お前の方が成績悪いから。俺、総合で学年10番に入ってるから。これでも一応、優等生だから。最近、ちょっと劣等生気味だけど……。


雅孝まさたか、ちょっと鏡見てきたら?」


 それこそ清隆と並んで鏡に映ってこいと言って、母さんは腹抱えてやがる。ちょっと、なんか口からこぼれてますよ。汚いから、口に物入れて大口開けるなよ。飲み込んでから笑えよ。ちょっと母さん、聞いてる? いい歳した大人がなにやってるんですかっ?


「同じ顔つけて何言ってやがる、このボケ」

「雅孝は天然だから」


 何、2人して言いたい放題言ってくれてんの。そりゃ清隆と俺は似てますよ。母親は違っても、父親は同じなんだから。それがどうしたってのさ。


「俺らが揃うと、女子のいいおかずになるんだと」


 清隆の彼女、恵子けいこちゃんがそんなことを言ってたらしいんだけど、おかずって何? それ、晩飯より旨い?


「マサの方が成績いいし、性格も一応・・穏やかだし。その分敷居が高いんだってさ」


 一応って何、清隆君。ひょっとして僻んでる? なんかすっげぇ面白くなさそうな顔をしてるんだけど、なんで? 敷居が高いってどういう意味だよ? あ、ほら、また足を蹴る。食卓の下で足を蹴るなよ、痛いって。飯くらい静かに食わせろよ。


 お前なー!!


「どっちのスマホ? 鳴ってるわよ」


 リビングに置きっ放しになってるスマホは俺のだ。仕方なく箸置いて立ってみたら、雪緒ゆきおだ。こんな時間になんの用かと思ったら……


 お父さんから連絡があって、今から店で会いたいって       ……つづく



【後書き】

 いよいよ真相解明かっ?!

 だったらいいんだけど、それよりおかずって何? 誰か教えてくんない? 母さんが作る飯より旨い?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る