第26話 父の秘密(2)
じいさんは親父に申し訳ないことをしたと言っていた。子のない夫婦と、親をなくした子。互いの幸せのためと親父を引き取ったものの、結局親父に二度も母親を亡くすという悲しみを味あわせてしまった。そう、ずっと後悔してきたらしい。
もちろん本当にそうだったかなんてわからないし、そうとも限らない。
だいたい親なんて子供より先に死ぬもんじゃん。
ごめんなさい
不謹慎なことを言いました。親父、じいさんより先に死んでるもんな。それを言っちゃとんだ親不孝ってことになっちゃうじゃん。親父だって死にたくて死んだわけじゃないんだし、それは言っちゃいけないことだって俺もわかってる。
マジ、ごめん
そりゃ世の中色々とあるけどさ、冷たい言い方だけど、結局それが早いか遅いかの話で、別れは必ず来るものなんだ。これだけは絶対だよな。誰にもどうにも出来ないことなんだ。
でもじいさんはその後悔を親父に言えず、親父はたぶんじいさんの気持ちを知らないまま死んでしまったから後悔だけが残った。そんな湿っぽい話が延々と続き、俺が家に帰ったのは夜の9時を過ぎた頃。もちろん晩飯はじいさん家で食ってきた。母さんや清隆には、年寄り相手にこんな時間まで何を話してたのかとかからかわれたけど、もちろん適当に誤魔化した。
じいさんの話じゃ、親父は自分が養子だってことを知っていた。じいさん夫婦の養子になった時、親父は11歳だったっていうから、子供といってもちゃんと覚えてるわけだ。これもじいさんに聞いた話だけど、親父は結婚前に母さんにはそのことを話してるらしい。
当然のことかもね
多分そういうことは事前に話しておかないと、後々離婚の原因になる。経験ないからわからないけど、たぶんそんな気がするんだよね。まぁ結局浮気なんてして、離婚原因を自分で作るような真似をしてるけど。
親父がじいさん夫婦の養子になって数年でばあちゃんが死んじゃうんだけど、初めてあの家に来た日、親父は小さな箱を大事そうに持っていた。親父はその箱を、学校にも持って行くし、友達の家に遊びに行く時も持って行ったていうからよっぽど大事だったらしい。
でも子供だもんな。結局飽きちゃったのか、邪魔になったのか、それとも忘れちゃったのか。いつの間にかその箱は、親父の部屋の押し入れにしまい込まれたらしい。親父が家を出たあとにそれを見つけたじいさんは、ばあちゃんの仏壇にしまい込んでた。今日訪ねていった俺に、じいさんは延々湿っぽい話をしながらその箱を出してくれた。紙で出来た箱は角とかがボロボロで、色なんてすっかりなくなっちゃってて汚いの一言に尽きる。
なんでこんな箱を?
箱なんだから当然中に何かを入れていたはずだ。親父はその中身を大事にしていたんだと思う。でもじいさんはその箱を見つけても、親父がこの世からいなくなっても、その箱を開けてみようって気にはならなかったらしい。
俺はじいさんに許してもらって箱を開けてみた。紙がボロボロで、強く持ったら崩れるかと思った。そのぐらいボロくなっていた箱を、壊さないよう緩く持ってゆっくり開けると、中には古い名札が入っていた。安全ピンがすっかり錆びて、その錆が布にも移って茶びてた。マジックで書かれた文字も、インクが滲んで薄れてよく読めない。
ささきしゅうへい
あまり綺麗な字じゃなかったけれど、辛うじてそう読める。それがこの名札の持ち主。親父は 「
けれどこれもかなり薄れていて全部は読めない。さすがに番地とかは細かすぎて読めなかったけれど、町名まではなんとかわかる。家に帰ってネットで検索してみたら、じいさん家よりもうちょっと先だ。電車も同じ路線で行けるし、幸い明日は日曜日。
ビバ、週休2日制!
けど気になることもある。じいさんの話じゃ、施設に親父は1人でいたっていうんだ。もちろん他にもたくさん預けられていた子供はいて、その中に親父もいたわけだけど。親父は両親を亡くして施設に預けられたっていうか、引き取られたっていうか。だからもし親父に兄弟がいたら同じ施設にいてもいいはず。でもじいさんは、親父は1人だったっていうんだ。
耄碌したか?
それとも写真に写ってる親父のそっくりさんは、兄弟じゃなくて親戚ってこと? 親戚だったら一緒に施設に引き取られることはないはず。いや、その親戚が親父を引き取ってくれてもいいはずなんだけど……。
いずれにしても名札に書かれた住所にもう親父の家はないんだろうけど、あったとしても知らない人が住んでるんだろうけど、近所の人に聞けば何か知ってる人がいるかもしれない。
案ずるより産むが易し
今は行動あるのみだ。いや、だからって別に俺、親父の無実を証明したいわけじゃないから。全然そんなこと思ってないから。
全然考えてないから! ……つづく
【後書き】
進んでる、進んでる。
順調とは言えないけど、とりあえず無事進んでる。なんとか清隆にも殴られず、俺も無事だ! 今のところ……
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