第25話 父の秘密(1)
俺も色々考えた。でもさ、結局アドリブも嘘も下手だからストレートに言うことにした。下手に嘘つくと、あとでバレた時がちょっと怖いというか、面倒というか。
「おじいちゃんとこ行くの? なにしに?」
「いや、なんとなく」
これまたストレートに訊いてくる母さん。こういうところは母さんと俺、似てるかもしれない。んじゃ母さんもアドリブが下手かと言えば、どうやらそうでもなくて、嘘も下手じゃない。歳食えば俺もそうなるのかと思ったけど、ならないような気もする。
根本的な何かが違うような気がするんだよな、俺と母さんは。なにが違うかはもちろんわからないし、それがわかればひょっとした俺もアドリブが出来るようになる気もする。ま、あくまで気がするだけなんだけど。
「最近会ってないし、どうしてるかなと思って」
母さんは俺が隠していることに気付いているのかいないのか、わかんないくらいあっさりと許可してくれた。いや、俺ももう高校生だし、別に親の許可なんて要らないんだけどさ。ちょっと遠出するからって、いちいち許可取らなくてもいいんだけど。なんとなく、一応言っておく。
これで堂々と出掛けられる
幸いにして清隆は友達と約束があるらしい。さすがにそれをぶっちして俺と一緒にじいさん家に行くとは言い出さなかったけれど、約束がなかったら付いてきていた気がする。付いてくるっていうか、監視っていうか。母さんと話してるあいだも、食卓を挟んだ向かいで俺のことずっと睨んでたし。
じいさんの家は結構田舎にある。電車で2時間くらい。すっげぇ遠くに聞こえるけど、実は
清隆と違って常識人の俺は母さんに言ったあと、つまり晩飯のあとでじいさんの家に電話して今日訪ねていくことを伝えておいた。母さんや清隆に聞かれるとまずいから、それこそ最近の清隆はどこで聞き耳を立てているかわかんないしさ。だから目的は言わず、とりあえず遊びに行くとだけ言っておいた。
すっげぇ怪しまれたけど
そりゃそうか。普段は正月の挨拶と、盆の墓参りぐらいしか行かないもんな。行っても暇だし、飯食うにも行儀が悪いとか、箸の持ち方が悪いとか、なんかお小言一杯で疲れるんだよね。
それでも孫の顔を見られるのはちょっとは嬉しいのかと思ったけど、本当のところ、どうなんだ?
「お久しぶりです」
親父の生まれ育った家とはいえ、親しき仲にも礼儀ありっていうもんな。玄関で出迎えてくれたじいさんに挨拶する。
「どうした、急に」
「ちょっと訊きたいことがあってさ」
親父が家を出てから、じいさんはずっとこの家で一人で暮らしてきたらしい。再婚とかしないで男手一つで親父を育ててきただけあってか、家の中もそんなに汚れていない。散らかっていないっていうより、無駄な物がほとんどないって感じ。
正直を言えば、雪緒の家の方が汚い。比べちゃ悪いと思うけど、昨日のあれはちょっと衝撃的でさ、忘れられないんだよね。あれから家帰って、真っ先に自分の部屋と比べちゃったもんな、記憶の中で。
「この人、知らない?」
俺はまずばあさんの仏壇に手を合わせた。その間にじいさんがお茶を淹れてくれて、卓袱台を挟んですわった。その卓袱台に置いたのは、昨日、雪緒から借りた写真だ。じいさんは手にとって、顔に近づけてみる。そして、やっぱり俺と同じことを思った。
「
「親戚かなぁと思ったんだけど、違う?」
普通に訊いたつもりだったんだけど、じいさんは写真を手に持ったまま黙り込んでいる。そこに写っている、親父に似たおっさんをじっと見たまま、ずっと考え込んでいる感じだ。いつも見る渋い顔のままだったから、なにを考えてるのか俺にはさっぱりわからない。
でも、間違っても隣に写っている雪緒の母親を見ているってことはないと思う。もちろん見てもいいんだけど、その人ももう死んじゃってるし、じいさんの再婚相手にはちょっと若いと思う。
ここは待つしかない。なんとなくそう思って、とりあえず出してもらった茶を飲みながら黙っていたら、どうやら俺は無意識のうちにじいさんと我慢比べをしていたらしい。やがて諦めたようにじいさんの重い口が開かれる。
「……周平の実の兄弟かもな」
「どういう意味?」
「周平は、俺と母さんの実の子じゃない」
なっがいなっがいじいさんの話を要約すると、ばあちゃんは子供が出来ない体質だったらしく、2人で相談して親父を養子に迎えたらしい。だから
そんでもって俺が予想したとおり、じいさんも、写真に写ってるおっさんが親父と同じような歳だって思ったんだな。それで兄弟じゃないかって考えたわけだ。
でもそれって…… ……つづく
【後書き】
意外だったな、親父にそんな過去があったなんて。
全然知らなかった。ひょっとしてこれ、またややこしいことになっていくんじゃないの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます