第24話 写真の男
歳は……40歳は過ぎてると思う、たぶん。でも50歳には届かないくらいだと思う、たぶん。冴えない感じのおっさんが、やたら化粧の濃いおばさんと2人で写真に写っていた。年甲斐もなく2人ともピースなんてして、肩とか組んで。でもすっげぇ楽しそうに、でもちょっと照れてる。2人とも顔が赤いのは、酒が入ってるからかもしれない。
派手な服を着たおばさんの化粧が濃くて、しかも油でテカってて、カメラのフラッシュで顔が白く浮いている。そのとなりで親父によく似たおっさんが、照れながら笑って写っている。なんか、本当に冴えない感じのおっさんだ。服も地味だし。
明るいところでその写真を見た瞬間、親父かと思った。9年前、本当は死んでなかったんじゃないかって、自分の記憶を疑った。死んだ振りして俺たちの前から姿を消して、俺たちの知らないところで生きていたんじゃないかって思った。本当にそのくらいよく似てる。
でも親父が死んだのは9年前、30代半ばのことだ。このおっさんほど歳は食ってなかった。でも本当によく似ていて、あのまま親父が死なずに、本当に生きていて歳食ったらこんな顔になってたんじゃないかって思った。
この写真に写っている人が親父じゃないってことはわかってる。どんなに否定したくても、親父が死んだことは変えられない事実だから。写真じゃどんな人かわからないんだけど、でもちょっと、この冴えないっていうか、情けない感じの笑い方とか、やっぱ親父と似てると思った。
どういうことだ?
写真を見て動かない俺に
考えるんだ
このおっさんは親父じゃない。親父じゃないけどよく似てる。これが最近の写真だとしたら、歳も親父と似たような感じになるんじゃないかな? つまり9年前は、このおっさんも親父と同じ30代半ばだったんじゃないかってこと。そう考えて真っ先に思い浮かんだのは親父の血縁だ。
兄弟?
いや、それはない。親父は一人っ子だ。ばあちゃんは親父が小さい頃に亡くなっていて、今、
やっぱりじいさんがいいか
雪緒には必ず返すって約束して写真を借りたんだけど、帰ろうとした時、裏口を出たところで雪緒に声を掛けてくるおっさんがいた。
またおっさんかよ……
あ、俺は姿とか見てないけど。先に雪緒が外に出て、続いて俺が出ようとしたところでおっさんの声がした。なんか間が悪くて、いや、別に悪いことをしてるわけじゃないんだけど、でもなんかさ、2人っきりでいるところとか見られて変に勘ぐられても嫌じゃん。大人ってすぐ色々根掘り葉掘り聞いてくるし、デリカシーとかないし、すぐ変なこと考えるしさ。
言っておくが、俺たち兄妹だから
そんなわけで外に出ず、玄関扉の内側に張り付いて耳を澄ましていた。いや、別に盗み聞きするつもりとかじゃなくて、ほら、怪しいおっさんだったら雪緒を助けなきゃならないだろ。でも知り合いだったら……例えば店の常連客とか、ご近所さんとかだったら俺と一緒のところは見られない方がいいだろうし。
「雪緒ちゃんか」
「
やっぱ知り合いらしい。このまましばらく隠れてるか。
「上の部屋に電気が点いてるから、何かあったのかと思ったよ」
「ちょっと忘れ物、取りに来たの」
「そっか。お父さん、相変わらず帰ってこないのか?」
雪緒の父親のことまで知ってるってことは、結構親しい間柄ってこと? いや、もちろん雪緒とじゃなくて、雪緒の母親とだな。やっぱり店の客か、ご近所さんか。
でもこの質問、どこかで訊いたような?
雪緒が返事に困って黙っていると、おっさんは、さすがに悪いことを訊いたとでも思ったのか、話題を変えてきた。
「
「ありがとう」
結構いいおっさんじゃないか。顔は見られなかったけれど、気のせいか、声を聞いたことがあるような、ないような?
気のせいか?
足音が遠ざかるのを待って、俺は扉の陰から顔を出した。俺が隠れてることを雪緒もわかっていたらしい。
「もう行っちゃったよ」
「誰? 知り合い?」
「お店のお客さん」
雪緒も顔見知りってことはやっぱり常連客か。
でも客が閉まってる店になんの用だ? 殺人事件があった店がこんなにすぐ営業再開なんてしないだろ、普通。そもそも店主が殺されてるんだ。営業再開そのものが難しいはずだ。
そんなに酒が飲みたかったのか? ……つづく
【後書き】
さて、いよいよクライマックス目指してラストスパートだな。
もちろんまだわかってないこととかあるけど、わかったら終わりじゃん。ここまで鈍行列車で徐行運転してきたからさ、それこそいつになったら終着駅に着くかわかんないけどさ……。
いや、始まりがあれば終わるもんだよなっ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます