第11話 パンツは忘れろ!

 今日は弁当忘れたんだけど、なぜか俺より先に家を出たはずの清隆きよたかが持ってきた。わざわざ俺の教室まで届けに来てくれたのはいいんだけど……いや、ここで文句をつけるのも恩知らずってわかってるけど、ちょっとだけ言わせてくれる? 清隆が来たり、清隆と話してるとクラスの女子に睨まれるんの。

 もうさ、相手かまわず敵意むき出しにするのやめてくれない? なんで女子ってさ、こうも自分に正直なわけ? 正直すぎるでしょ。しかもさ、俺、男なんですけど。男相手に敵意むき出すのやめてくれない? 俺、別に清隆のこと好きじゃないから。あ、いや、だからって別に嫌いなわけじゃない。恋愛対象と思ってないから。思えないから。だってそうだろ? 


 俺たち、兄弟だし


 なんかさ、今日は女難の相でも出てたわけ? 中庭で弁当食おうとしたら、また清隆に首絞められるし。2日連続で絞められるなんて初めてじゃね? しかもそれをクラスの奴に見られて、5時間目前にからかわれるしさ。


 あ、清隆は男か


 男だから女難の相は関係ないけど。もう、どいつもこいつも俺たち兄弟をからかいやがって、くそったれ。いや、1番馬鹿にしてるのは親父だけどさ。


 殺人犯だなんて、巫山戯るのもたいがいにしやがれっての


 俺はそれを確かめるため、学校の帰りに警察署に寄った。もちろん嫌だったんだけど、でもしょうがないじゃん。このままじゃこう……モヤモヤするっていうか、なんていうか。だから好き好んで変態に会いに行ったわけじゃないから。むしろ会いたくない。そこんとこ、絶対に勘違いしないで欲しい。


 ま、警察に行くのはいい。いや、あんまりいいことじゃないか。うん、いいことじゃない。全然いいことじゃないし世話にもなりたくない。でも、このモヤモヤを晴らすためには確かめるしかなくて。

 だから行くまではよかったんだよ、行くまではね。でもさ、俺、肝心なことを覚えてないんだよ。


 変態の名前


 もう刑事を付けるのも忘れてるよ、俺。警察署ってさ、刑事とか警官とかが一杯いて……いや、ま、当たり前なんだけど。

 でも、だから名前がわからないと、誰を訪ねていけばいいのかわかんないんだよね。警察に着いてからそのことに気づくなんて、すっげぇ間抜けなことしちゃって、もう焦った、焦った。


 受付みたいなところで……あ、受付って書いてある。受付みたいな、じゃなくて受付で、いわゆる婦人警官の制服を着た女の人に、誰になんの用か訊かれて答えられないでいたら、すっげぇ怪しそうな眼で見られてさ、すっげぇ汗かいた。脇の下とか、背中とか、びっしょりなんですけど。背中とか脇とか、気持ちわりぃ。


 でもさ、ここで逃げたら職務質問っていうの? よくいう職質ってやつ、されるんだよな。それでちょっと署までって言われるんだよ。で、連行されるんだよ。そんでもってこれに逆らったら 「公務執行妨害」 で逮捕なんだよ。


 あ、そうか


 逆らわずに連れて行ってもらえばいいんだよな。そうすれば向こうから来てくれるんじゃね? ナイスアイデーア! 俺ってあったまいぃ~とか思ったけど、もう警察署にいるし。思いっきり作戦失敗。ってか、別に作戦じゃないけど。


 ちょっと、どうするんだよ


 制服のまま来ちゃったから、ここでへんなことしたらきっと学校に通報されるんだろうな。それこそ走って逃げ出したら、捕まって職質コースまっしぐら。そんで取調室に入れられて学校に通報……いや、その前に家に連絡されるか。あ、でも母さんまだ帰ってないし大丈夫。


 ……清隆がいる


 油断も隙もあったもんじゃないよな、清隆には。今もここにいたりしてとか、ちょっと思って周りを見たけど一応見当たらない。清隆は見当たらなかったけど、代わりに変態2人を見つけた。


 ラッキー


 ……なんかさ、あの2人を見つけて喜んでる自分がすっげぇ嫌なんですけど。ものすんごく嫌なんですけど。なんか蹴り飛ばしたくなるくらい嫌なんですけど。


 蹴らないけどさ


穂川ほがわ……どっちだっけ?」


 やっぱこいつらも覚えてないよな、俺のこと。だったらこれでおあいこだ。


穂川雅孝ほがわまさたかです」


「ああ、パンツの」


 変態AでもBでもどっちでもいいけど、パンツは忘れろ、パンツは! なんで覚えてるの? さっさと忘れるよ。ってかこんなところでパンツの話なんて持ち出すなよ。


 恥ずかしいだろ!


 あんたらだってはずかしくないわけ? こんなところで公然と 「パンツ」 なんて単語を口に出して。平気なわけ? 受付のお姉さん、笑ってるじゃん!

 いや、あんたらは平気でも俺は平気じゃないの。恥ずかしいの。すっげぇ恥ずかしいからやめてくれない?


「ちょっと訊きたいことがあって」


 恥ずかしさを堪えて俺の方から切り出すと、変態2人は顔を見合わせ、それから署内にある一室に案内してくれた。

 警察署内って初めて見るけど、結構暗いし廊下に物とか一杯置いてあって、よくニュースで証拠品なくしたって聞くけど、あれ、マジっぽい気がする。だってこんな乱雑に物置いてたら、1つくらいなくなっても誰も気づかないだろ? 廊下にさ、まるで不法投棄みたいに乱雑に置いてあるって……いや、案外置いた人たちにはどこに何が置いてあるのかわかるのかもしれないけれど、これ、絶対掃除のおばちゃんにゴミと間違われるって。証拠品かどうかわからないけど、扱いが適当すぎるって、絶対。


 案内された部屋も、狭くて物が一杯。なんなのこれ? 元々広くない部屋に物を一杯押し込んで、無理矢理空けた真ん中あたりに、学校の会議室に置いてあるような長机が1つあって、その両側にパイプ椅子が4脚。物凄い強引にねじり混んでるから全然余裕がなくて、すわるときっつきつ。だから必然的に変態2人の顔も近い。


なんか嫌だな、ここで話すの       ……つづく



【後書き】

 もうさ、鈍行列車徐行中! っていうくらい進まない。到着時間未定でダイヤ乱れまくりって感じじゃね? 全然話、進まないじゃん。もういつまで続くんだよ? 俺、もう疲れちゃったんだけど……一応この物語はフィクションだから。

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