第9話 濡れ衣

 やっと変態どもが帰ってくれたのはいいけれど、なんか俺の立場、ないんですけど……。だってさ、俺がどんだけ苦労したと思う? むっちゃ苦労したんだけど。あんだけ苦労して、それなのに清隆きよたかの奴、指1本で終わらせやんの。それも5分くらいで。


 たったの5分だよ


 ありえなくね? ってか、もうこうなると許し難くね? 腹立つよなぁ~。

 あ、いや、そんなこと思ってても、間違っても清隆には言わないけどさ。どんなに口が裂けても……じゃなくて滑っても……ってか、今日はちょっと滑ったけど。

 出来たら母さんにも警察のことは言わないで欲しいんだけど、無理だろうな。清隆はあの性格だし。なんであいつ、あそこまでゴーイングマイウェイなわけ?


 晩ご飯はゆっくり食いたい


 案の定だ。晩飯始まった早々に言い出しやがった、清隆の奴。今日、警察が来たこととか、俺の部屋を荒らされたこととか。パンツの話までしなくていいからな。なんでそこまで言う? 余計なこと言わなくていいから。そこ、余計だから。


 飯の最中だぞ、おい……


「何やったわけ、雅孝まさたか


 うわ、やっぱ母さんもそう来ますか。俺が何かやったと思いますか。ちょっとは息子を信じてくれない?

 してませんから、俺は何もしてませんから。そもそも警察のお世話になるような大それたこと、出来るような性格じゃありませんから。


 いや、信号無視はしたけどさ……


 なんかさ、ここまで辿り着くのにめっちゃ時間かかってるけど、俺が寝坊したのは今朝のことだから。今日の朝のことだから。1時間目に遅刻して、時間割間違えるなんて小学生みたいな真似したのも今日のことだから、俺、高校生だけどさ。


「何もしてなくて警察が来るわけないでしょ? あんた、馬鹿なの?」


 まぁね、それはそうなんですけど。そうですけど、俺は何もしていません。

 しかも予想通り 「馬鹿」 って言われたし。こんな予想、当たってくれなくてもいいんですけど。ってか、当たるなよ。もうみんなして巫山戯てくれちゃって。


 1番巫山戯てるのは親父なんだけど……


「そういやマサ、お前の部屋に俺のパンツ混じってたからあとで返せ」


 はいはい、勝手に持って行ってくれ。パンツの1枚や2枚、もう好きにしてくれよ。ってか、飯の最中にパンツの話をするなって何度言ったらわかるんだよ。なんでどいつもこいつもパンツの話ばっか。


 いい加減にしろ


 もう馬鹿でも何でもいいです。とりあえず警察が親父を捜してることは母さんに話さないでおく。清隆がパンツを蒸し返して……おい俺、パンツを蒸してどうするんだよ? 食うのか? そりゃ今飯食ってるけど、さすがにパンツは食えないだろ? ってか食いたくねぇし。いくら母さんに怒られても、パンツだけは飯に出されても食いませんし食えません。


 断じて


 ただの言い間違いなんだけど、正しくは清隆がパンツの話を蒸し返して話も反れただよな。そんで丁度いいからこのままバックレだ。


 清隆、グッジョブ!


 いや、ま、このままじゃ済まないのはわかってるけど、とりあえずこの場はバックレ決定。よくわからないまま母さんに話して心配掛けてもなんだし、ってか怒るし。八つ当たりはご免だし。三途の川はまだ渡りたくないし。


 バックレ決定


 ただな、ちょっと気になることはあるんだ。ま、ちょっとだけど。それは何かと言えば2人の様子が何か変だってこと。もちろん2人っていうのは母さんと清隆だ。

 なんかさ、空気がおかしいんだよ。どこがどうとは説明出来ないんだけど、どこかおかしい。たぶん説明出来りゃ全くおかしくはないんだろうけど、わからないからおかしいとしか言えないわけだ。


 ひょっとして2人とも何か知ってる?


 そんなわけないか。だって、そもそもあり得ないんだよ。9年も前に死んだ親父の指紋が、最近起こった殺人事件の現場に落ちていたグラスに付いていたなんて。だってそうだろ? どうやってつけるんだよ? 今の親父は骨だけなんだから、指紋なんて無いんだよ。

 それとも何か? 9年前に付いた指紋が9年経った今も残ったってことか? あれ? ちょっと待て。なんか変だぞ。いま気がついたんだけど、そもそもその殺人事件っていつ起きたんだよ? ちょっと待てよ。だってさ、殺人事件の時効って何年だよ? ひょっとしてまだ時効じゃないとか?


 親父が生きてる頃のこと?


 いやいやいや、ちょっと待て。今って時効がないんじゃなかったっけ? これって凄くやばくね? だってさ、親父、死んじゃってるんだよ。このままじゃ無実の証明って出来なくね? いや、それ以前にだな、親父が生きてる頃の話だったとして、本当に親父はやっちゃいないのか?

 あれ? でもさ、それだとなんで9年も経って親父を探しに来るわけ? 指紋があったっていうのなら、もっと早い段階で来るもんじゃね? それこそ親父が生きてるうちに。


 そもそもなんで親父の指紋だってわかったわけ?


 これ、最大の疑問じゃん。だってさ、例え親父が生きてる頃に起こった事件であっても、親父が死んでからであっても、なんで一般市民の指紋を特定出来るのさ?

 例えばさ、俺が……いや、清隆が万引きしたとして、その指紋がコンビニに残ってたとして……あ、コンビニで万引きしたってシチュエーションね。で、その場合、清隆の指紋だってどうやって調べるんだよ? 普通、わからないんじゃね?

 言っとくけど俺も清隆も親父も、日本全国どこにでもいるごくごく普通の一般市民だから。そりゃ信号無視くらいならするけど、万引きすらしたことない健全な男子高校生だから。いや、親父の高校時代は知らないけど、少なくとも普通のサラリーマンだったから。


 じゃ、なんでわかったのさ?      ……つづく



【後書き】

 すっげぇ雲行きが怪しいんですけど。

 三途の川を渡らずに済んだのはいいけど、なんかすっげぇやばいんですけど。ってかまた変態2人、出てくんじゃね? 俺、ひょっとして殺人犯の息子なわけ? いや、この物語はフィクションだから。たぶん大丈夫。たぶん……

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