第7話 怖いもの知らず

 なんか、話がややこしくなってきたところに、さらにややこしくしてくれそうなのが帰ってきた。弟の清隆きよたかだ。登場早々、相手が警察って知らないからガン付けてくれちゃって。 「公務執行妨害」 で逮捕されても、俺は知らないよ。ほんとこいつ、怖いモン知らずだからさ。

 いや、知らないのは相手が警察ってことか。そう、刑事なんだよ。なに勝手に俺の友達にしてくれちゃってんの? 冗談じゃないよ。こんな変態ども、友達じゃないから。絶対友達じゃないから。友達になんかなりたくないから。


 欲しけりゃくれてやる


 それこそ熨斗とかリボンとか付けてさ。出血大サービスで二個一。2人まとめてくれてやる。ついでに熨斗とリボン、両方付けてやるからさ。


 返品不可でよろ


 噂をすれば陰、なんて言葉もあるもんな。清隆のことなんか考えたのが悪かった。余計なこと考えちゃったから余計な面倒が起こって、俺は玉砕したわけだ。もう綺麗さっぱり、見事に粉々。親父は骨残ってるけど、俺は粉だよ、粉。骨も残ってねぇよ。


「君は?」


 もうどんな名前か忘れたけど、そうだな、変態刑事Aが清隆に尋ねたんだけど、それが清隆は気に入らなかったらしい。


「君って、なに気取ってんの? 気持ち悪いんだけど」


 ちょっとちょっと清隆、なに喧嘩売ってんの? その人たち、変態だけど警察だから。刑事だから。まずいよ、それは。やめてよ、やめようよ、その喧嘩は。


 俺、平和主義だから


「こういう者です」


 変態刑事Aが、また黒い手帳を取り出し開いてみせると、変態刑事Bもそれに倣う。さっきから見ているとAが先輩でBが後輩ぽいけど、見た感じの歳はわからない気がする。

 ま、人は見かけじゃないよな。だってこの人たち、一見普通ぽく見えるけど、本当は変態だから。人のパンツ漁るような変態だから。散々俺のパンツ漁ってくれたから。


「なに、それ?」


 一応変態2人……じゃなくて、変態刑事2人は手帳を見せて身分を明かしたつもりみたいだけど、火に油を注ぐって言うの? 余計に清隆の機嫌を損ねた感じ。

 清隆はいきなり俺の両肩に手を置いたかと思ったら腕力任せに押しのけて、狭い部屋をずかずかと突き進むと、変態2人……もう訂正するのも面倒くさいからこのままいくけど、変態2人の前に立って、提示された手帳に顔を近づけ、凝視っていうの? してる。まさかともうけどこいつ、手帳にまでガンくれてんのかよ?


「警察がマサになんの用だよ?」


 やっとの事で2人を警察だって納得したらしい清隆だったけど、相変わらず態度はふてぶてしい。ふて腐れてるっていうんじゃなくて、なんかこう、不機嫌絶好調みたいな感じ。いや、怒ってるのかな? そうだな、これは怒ってる感じだな。


「いや、俺に用じゃなくて……」


 さて、どう説明する? 親父がなんか 「重要な参考人」 だなんて。参考人の意味がわからないのに説明のしようがないじゃん。もう最悪だ。こんなことなら知ったかぶりなんてせず、ちゃんと訊いておけばよかった。それ、どういう意味ですかって。


 馬鹿丸出しでいいからさ


 いや、わかってる。後悔はあとでするもんだろ。わかってるんだよ。でも同じ失敗を繰り返しちゃうんだよな。俺の学習能力、ひっくぅ~いからさ。


 自分で言ってて悲しくなってきた


「マサじゃないなら誰に用があるってのさ?」


 うわ! なに、その自信たっぷりな顔。絶対自分じゃないって自信満々じゃん。なんで自分の可能性が微塵も入ってないわけ? お前、どんな自意識過剰? ってかその目、思いっきり俺のことを疑ってるだろ? 俺が嘘ついて誤魔化そうとしてるって思ってるだろ。


 違うから


 本当にこいつら、俺に用があるんじゃないから。こいつらが用があるのは親父だから。


「だいたいこいつら、お前の部屋で何してるわけ? これ、なんだよ?」

「家捜し」


 他に答えようもないから正直に答えたんだけど、正直に答えたのに清隆は気に入らなかったらしい。


「見りゃわかる」


 むっちゃぶっきらぼうに言ったかと思ったら、俺の首に手を伸ばしてきた。絞める気だ。すぐに腕力に訴える癖はいい加減直してくれ。子供じゃないんだからさ。ね、清隆君、ちょっとは大人になろうよ。

 なんてうんざりしているあいだに俺は清隆に首を握られる。やばい。避けるの忘れてた。


「正直に答えろ、何をした?」

「何もしてないって、俺は」

「何もしてないのに警察が家に来るのか? 何もしてないのに部屋、荒らされるのか?」

「いや、だから、それは、その、さ」


 清隆くぅ~ん、親指で喉仏ゴリゴリするのやめてくれる? ちょっと苦しいから。ほら、平和的に話し合おうよ。ってか俺、黙秘権使ってないじゃん。なんで実力行使に出るわけ?


 ちょっと清隆、短気すぎ!


 とりあえず警察の訪問目的を手短に話したんだけど、俺の説明が手短すぎたのか、あるいは悪かったのか、清隆の目つきがまた一段と悪くなった。俺の喉仏をゴリゴリする親指にも力が入る。

 ちょっと、やめてって。マジで止めて、このままだと俺、窒息するから。もう結構苦しいから。ほら、なんか息がヒューヒュー言ってるし。死んじゃうよ、俺。ねぇ、清隆君ってば!               ……つづく


【後書き】

 ってか、次までに俺、死んでね? ちゃんと生きてる? なんかもう、半分くらい窒息してるんだけど。すっげぇ苦しいんですけど。そりゃこの物語はフィクションだけどさ、苦しいんですけど……

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