契約者の継承
この世界は、血に汚れていて汚いかもしれない、綺麗な世界とは全く言えないかもしれない
ショウは夢を見ていた。その夢は1度見ていた。この夢の正体はチャイミーだったっけ?その夢はチャイミーと出会う元凶の夢によく似ていて銀かった。この白い空間にチャイミーではなく少年が立っていた。ーー誰なのだろうか?夢の影響なのか全身が硬直し、微睡みの中にいるように身体が動かなかった。それはショウも何故かは知らない、しかしショウがそうやって考えているうちにゆっくりと足音を確りと空間に反響させて近づいてきた。ーーしめた、これでこの男のことが分かる。そう思って銀の空間で目がチカチカしてあまり開ける気分ではなかったが開けなかったらその正体が暴けないから今は目に痛みが走る様な光にも耐えなければならない。ショウは目を凝らし、ショウに近づいてきた男を凝視する。その刹那にショウはハッとして思い出したようだ。
ーーそうだ。俺は
ーーあの男を知っている。
ショウの頭の中が誰かにコントロールされたように弾かれたように思い出した。この男は知っているが輪郭が確りと浮かんでいないために男の顔がハッキリと確認出来ないのが少し悔やまれる点だ。ショウは忌み子と言われていた過去で夢は殆ど見たことが無い、確か人生で初めて見たのがチャイミーの夢だ、これで通算二回目、と言ったところであろうか。でも不思議な点も沢山ではないがいくつかはある、何故今夢を見るのか、今後に関わる大事なことが関わっているのかと考え込んでみるが分からなかった。全身が硬直して動けない状態という普通なら有り得ない状況下に置かれていて正常な思考ができる人間は嫌というほど夢を見ているのだろうか。
その刹那に銀い空間の輝きの虹彩は一層増してショウの目を眩ませる、ショウは目の前にいる人間が誰だか分かるのに分からなかった。
微睡みが強大になり夢から覚めていく、ショウは遂に思い出せなかった。
その夢の去り際で男は。
ーー笑っていたような気がした。
ギシ、とハルベロス学園の寮のベッドが軋む、休戦の猶予は十時間もある、そして戦争のルールは夜は戦闘を行わないこと、十時間の猶予とその夜間休戦で十分な体力の回復が望めるだろう。夢から意識が遠ざかり瞼の感覚を取り戻し、熱を帯びている四股の感覚が掴めている、しかしショウには“不可解な点”というものが存在していた。まず一つ、何故だかは知らないが身体が異常に重いこと。そして顔に何か布のようなものが重みを纏ってのしかかっている事。あとそののしかかっている物は異常に柔らかいこと。そして最後はそのの重量を感じる何かはショウが幻惑しそうな程にいい匂いがしていたことだ。ショウはその現象を目を閉じたまま解明して見ることにした。まず身体が異常に重いことだ。これは何か落ちてたまたまショウに着地したのだろう。そして次は布だ。恐らくこれも落ちてきた何か、重いぬいぐるみのようなものに布がかかってショウの顔に触れているのだろうと思った。次に柔らかいこと、ぬいぐるみは柔らかい、しかしそのぬいぐるみは生身の肌の様な柔らかさなのだ、それも異常に人間の肌よりも柔らかいのかもしれない。そして最後はいい匂いということだ。ぬいぐるみはいい匂いがするのか?ーーいや、待てよ、これはぬいぐるみではないと今更になって分かった。今のしかかっているのは“人間”そして男性より柔らかい事から女性と考えられる。昨日の記憶が鮮明ではない、しかし念の為といわれハルベロス学園の生徒に巻かれた包帯を巻いたチャイミーが部屋に来ている事だけは記憶には確かだった。俺はその時ウトウトしていて寝落ちしてしまっていたがチャイミーは部屋から出て行っていた筈なのだ。
でもチャイミーだから俺に何を仕出かすか分からないと自覚済みだった為か本能的には悪夢を見た時のように目を見開いた。そこには自分の予想と非常に反している光景が目に浮かんでいた。
ショウの顔にのしかかっていたのは、お尻。制服のスカートを穿いたまま寝ていてそのスカートを通り越して物理的にパンツにショウの顔が埋まっていたのだ。
それには流石にショウも動揺するしかなかった。お腹らへんに感じる柔らかさは制服が少しはだけ露わになった胸、ショウは少し顔を上げて誰だかを確認する。ーーまあもう分かりきったものなのだけど一応。
長く白い髪をたなびかせ制服のまま無防備に幸せそうに眠っている同年代の少女。まるでショウに襲って下さいと言っているものとしか思えなかった。そう、同年代の契約者にして二人して最強と言われ磁石のS極とN極のように引き付け合い、結ばれた少女
ーーチャイミーの姿があった。
チャイミーの誘いに似たこの様な行為は初めてではなかったから落ち着いて対処する事はできる。しかし落ち着いていても心拍数の上昇は否めない、当人の身体を見ると自然と頬を朱になるのだ。チャイミーは幸せそうに眠っている為起こしてしまうにも可哀想だったから慎重に自分からチャイミーの身体を離して寮から出る、ポケットに仕舞っていた簡易歯磨き薬を口に入れた。
ハルベロス学園の中は夢かと思うほど魔法が飛び交って生徒が歩き、話し、学園生活を楽しんでいる、ーーもし戦争が無かったら、誰も死なずに済んだのに、もしこの生徒の中で友達だった人も失わずに済んだのに、と心の中で思った。今でも吐き出しても吐ききれない嗚咽は山ほど残っている、それを飲み込んでショウはほぼ気分に任せてハルベロス学園の食堂へと向かった。食堂は生徒が黙々と食事をしていてバイキング形式のようだった。ショウが食べる食事はありきたりなものでコーラとホットドッグ、そして蜜柑味のゼリーを食べた。別に美味しくない訳でもないが今は色々な感情が頭の中が混ざっているから味などはあまり感じることが出来なかった。朝食を終えると図書室に向かう、図書室も本が飛び交って魔法を有効活用しているようだった。こんな鬱蒼とした本の森の中でなんの本を探すかは自分の気分に任せるが物珍しそうな目で図書室を見つめていたら第三者と“もう二人”が現れる。
その十五歳の二人の少女は名前のない怪物専属の諜報局の諜報長と副諜報長、そしてもう一人はショウもよく知っている人物だった。
コスモ、ルカ、ナナシ、この三人がショウの前に現れたのだ。何故かコスモはカケルとは今日は居ないらしい、寝ているのだろうか。
「コスモ、カケルは?」
コスモは初めて知ったような様子でカケルの居場所を言った。
「カケルは、多分部屋にいると思う、寝てると思うわ。」
「起こそうと思ったけど余りにも寝顔が可愛かったからキスして出てったんだってさ!羨ましいよねぇー」
その言葉を聞くと同時にコスモは少し恥ずかしげにてを交差させた。
「ねぇお兄ちゃん、なんで図書室なんかに来てるの?」
「いや、なんか気分だよ、何もする宛もなくてさ。」
ふーんとナナシは頷きショウの双眸をナナシの大きい緑の目で覗く、ナナシの意図は掴めないため少し身をたじろっていた。
「そっか!じゃああたしと一緒に本を読もうよ!早く早く!」
ショウはナナシに手を引かれ成す術もなく本の森の中に入っていった。ナナシはショウに執着する理由は色々あるのだが、一番はナナシの十年という短過ぎる人生の中で過酷にも程があるような人生を辿ってきたからだ。
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ナナシ
本名不明。
物心ついた時から親が存在しておらず孤児、未だに自分を証明するものは持っていない、しかしネームプレートに書かれていた名前はナナシという名だったからそれが唯一の名だった。ナナシもショウ達と似ている人生を送ってきた。まず親が居なく、孤児のため暮らす場所、寝る場所、が存在しておらず全て奪って生きていく人生を辿っていた。信じられるものなど何も無い、信じられるものは己のみ、だから全て奪って、欺いて生きてきた。その過程からか足が異常に速くなり盗みの技術など(盗み聞き、情報収集)は他の情報人とは凌駕していた。そして名前のない怪物とは奪還作戦の前から親交があった。それはショウの招待で名前のない怪物の隠れ家にやって来たことだ。それでショウから愛を教わり十歳ながらショウに片思いをしている。護身用としてポケットピストルを所持しており銃のコントロールや物覚えなどは他より高い。
後遺症は目立ったものは無い。
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こっちこっちと無邪気に笑ってショウを振り回す、ショウもナナシの俊敏力や行動力について行くのに精一杯であった。
息を切らしながら辿りついたのは契約者の書物が記された棚、そこには大量の契約者についての情報の文献が記されていた。身体能力或いは契約のメカニズム、そして契約者が身体を限界を超えると特殊能力が覚醒すること。
これはショウも聞いたことがある。その特殊能力は身体中に赤色の輝きを放ち目の色も片目が変わる、契約者の一%にも満たない特殊能力、その力を持つ契約者は千年前を境にパタリといなくなっているらしい、その力を曰く“ソウル”と云う。
ナナシは怪訝な顔をして文献をパラパラと捲って契約者について調べている。
「契約者の力は色々な種類があってねー。まず......。
第一の力が契約の力ね。
第二の力が二重人格の力。
第三の力がソウルの覚醒、全てを壊す力ね。
そして第四の力は“禁忌”とされていて二重人格の分裂、もしくはハルベロスの守り神“フラン”との契約、もしくはその両方の力なんだよねぇ。」
今、ショウが目覚めている力は第二の力、二重人格の発現、第三の力はもう千年も途絶えている、それ以前の問題に第四の力など目撃したものは大昔の人間の証言でも存在していないという。そんな事を調べる為に俺を連れてくる理由なんてあるのだろうか?でもナナシが一生懸命に調べているのを水の泡にしてしまうのも癪である為最後まで話を聞くことにした。
ナナシの契約者の覚醒攻めは一時間も続いてしまっていた。ーーあと九時間しかない、今のうちにしたいことは全てしておかないと気が済まなかった。という事で最初にカケルの部屋に飛び込んだ。
勢い余ってそのままベッドにどさりと倒れ込んだ。部屋にはコスモ、ルカもお邪魔していた。
「どうして俺の部屋に来たんだ?それ相応の理由があるという事だよね?」
こくりとショウは一度頷いた。
「でもどうして?そんなに大事な用事なの?」
コスモは小さな声で、ショウに問いかけた。ーーコスモにとってはそんなに大きな用事ではないと思うけど孤独だった契約者ならではの楽しみだ。
コスモとルカはショウの思惑を察したらしくふうんと言って確りとショウの双眸を見つめ、続けた。
「分かった!私も手伝うよ!ね?コスモ!」
コスモ「そうね、カケルと離れる訳には行かないし、ここは一緒に行動しようかしら。」
カケルの目の前ですこしストーカー気質で完全に束縛スタイルのコスモにカケルは少し苦笑して二人の言葉を引き継いだ。
「分かったよ、じゃあショウの部屋にみんな呼び出そうか、多分チャイミーもショウのベッドの匂いを嗅ぎながらゴロゴロしてると思うからね。二人は先に行っていてくれ。」
「分かった。」
二人は手を繋ぎながらカケルの部屋を後にする。ここから見るとカケルと付き合っているのか、ルカと付き合っているのか分からなくなって感覚が麻痺しそうだ。そう考えると二人が紡がれた血濡れた過去は御伽噺の様で美しいものだった。
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広野秋桜
西崎流風
二人とも同時刻、同病院で日本国の北海道で生まれる。出生年、1945年
コスモは前は陽気でこんなに静かな少女ではなかった。
ルカは今と同じで無邪気らしい。コスモは昔は秋桜が好きでいつもそのお花畑でルカと花の冠を創りあって遊んでいた。今の武器も呪われた秋桜。同等にルカは音楽が好きだったらしく呪われた指揮棒を所持している。幸せな事しかなかった二人だが一瞬でその幸せは雲に覆われ、軈て嵐となった。ある日、村に地震がおき大被害を受けていた。そして村長は皆を集め、二人を断頭台の上に立たせ地震はこの二人が原因である、とその言葉に洗脳されていった人間達はショウなどの契約者の様に酷い扱いを受けていた。絶対に違うと信じてくれると思っていたのも束の間、説得したのだが洗脳されている村人にそれも届く筈も無かった。殴られ、蹴られ、時には血も吐いた。二人はもう届かないと確信し自決を決意、村を抜け出しいつも遊んでいたお花畑で包丁を突き刺し合って自決した。二人の躯は翌日に発見された。
そして2019年にあの世から脱出、蘇りを果たしている。
補足。呪われた武器を所持、それを使い人間を殺している。
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コスモとルカを見送った後、ショウとカケルもショウの部屋に向かうことにした。
しかしそこには今チャイミーがいるだろう、もしかしたら裸なのかもしれない、もしかしたらきちっと支度をして魔法の勉強などをしているのかもしれないし、今はどっちなのかは分からなかった。
御二方は部屋に辿り着きノックもせずに無心でドアを開ける、するとドアの向こうには顔を赤らめたチャイミーの姿、よく見るとショウのベッドのシーツにくるまっておりベッドの下の床には脱ぎ捨てられた制服。
恐らくショウを全て感じたいが為かこのような行為に及んだのだろうか。
勿論このような事は全く予想していなかったショウは全身を硬直させて冷や汗を垂らした。カケルはショウの現状を察したらしく一足先にドアから離れる。
二人共頬を朱にして見つめあっていた。
シーツを剥げばチャイミーは裸姿だ。でも見る訳にはいかないし、どうすればいいのだろうか、此処はもうこの手段しかないのだろう。
「チ、チャイミー......俺、一回部屋から出ていくから着替えててね」
コクコクと顔が赤いままのチャイミーは頷いて、それを確認した後にゆっくりとドアを閉める。
ショウはドア越しに手を胸に当てて心拍数を確かめていた。ーーやばい、観ちゃった…観ちゃった!すこし笑顔気味でドキドキを隠しきれないようであった。
ベッドに佇んでいたチャイミーも顔を両手で押さえてあああと声にもならない声を上げる。
「ショウに、ショウに見られちゃったよう.......」
流石に恋人でも自身の裸を見られることは恥ずかしいようだ。
それから数分が経ち、チャイミーも確りと制服姿に身を包んだ。部屋に集められた精鋭たち、ショウ、チャイミー、カケル、ルナ、ダイ、イカロス、コスモ、ルカ。
この人達で何をしようと思っていたのかコスモとルカには分かっていたが他は分からないようで顔にハテナを浮かべていた。ショウはこの人達で何をしようとしていたかと言うと.......。
「みんなで料理をしたいんだ。」
それには流石に皆も動揺の面持ちを見せた。
確かに名前のない怪物の中で料理ができる人間は限られている。その限られた人間の中で料理をしたいと思っているのだろう、ルナとチャイミー、コスモとルカは料理が得意な為今回は食べるだけという立ち位置になった。
ショウは料理は出来ないわけでもないがたまにしかやらない為自分から料理したいと言った。
「よし、まず火をかけるからこの水を火にかけてくれ。」
「分かった。」
ショウは何気なく水を持って火を付けた。
そしてショウは火を付けたガステーブルに水をぶっかけた。
それにはテーブルで和気藹々と話をしていた少女達も笑わずにはいられなかった。
「おいィィィ!ショウお前何やってんだ!そういう事じゃねえ!」
うわうわと焦りながら愚痴って布巾で水がかかったガステーブルを吹いていく、ショウは苦笑しながらごめんと一つ謝った。
そんな感じでキッチンは休息の場ではなく戦場と化した。
怒号が響き渡り料理とかの問題ではない、部屋のソファーで座っていた少女達も心配そうに見つめていた。
「大丈夫...なのかな」
「まあ味には期待しないどくけど完成はすると思うよ」
「カケル....頑張れ」
「凄いよ....混沌だよ」
一方、調理場という戦場では......。
「イカロス何やってんだ!魚鎌で捌くなよッ!」
「これ以外みんな錆びちゃってたからこれしか無かったんだよね」
「ダイ!お前なに逃げようとしてんだ!脱獄してんじゃねえよ!」
「火力がいるのだろ?だったら少し走ったらそれなりの火力は出る筈だ。」
「アップしようとしてんじゃねえよ!なんだ、何なんだお前ら!」
カケルは驚嘆の叫びをあげて少年達の料理のスキルの無さに仰け反っていた。
この光景にはショウも少し苦笑いを浮かべていた。ーーやっぱりやるんじゃなかったかな、そう思っていたがやってしまったものは仕方が無いのだ。四人はもうやり通すしか道はない。
3時間が経ち調理が終わり、盛り付けをして、味見をして契約者特製の料理は完成した。
少女達は肩を並べてテーブルに並べられている料理を見ておお、と賞賛の声を上げた。
時間は掛かったが全てが正確で、綺麗な盛り付けだった。
魚のムニエル、ラーメンサラダ、唐揚げ。核兵器の天変地異で魚は超高級食材に成り代わったが奪還作戦のお礼と言われ生徒から優良な魚を貰っていたのでそこはラッキー。
因みに料理に疲れた契約者は倒れ込んで遂に眠ってしまった。しかしショウだけは皆の感想を聞くためにウトウトしつつも手を後ろに交差させて立っていた。
少女達は一口、また一口と料理を口に運んでいく。
最初に反応を示したのはルナだった。瞳を煌めかせて立ち上がった。
「何これ美味しいよ!凄いよ!凄いよショウ!」
「あ、ありがとうね」
チャイミーも美味しいと言ってショウの耳元に近づく。何か不満があったのか口に運んでいる少女達に聞こえないように配慮した囁きのようであった。
「ショウ、確かに美味しい、でもね?」
「ここで悪い点があるの」
ーー悪い点?なんだろうか、でもいい点も悪い点もひっくるめて聞くことも大事だとショウは思う、今死んだように倒れているカケル達に変わってショウが代表して聞くことにした。
「見て、一つは確かに美味しいけど量が足りないのが分かる?」
「うわコスモ!」
チャイミーが言い終わった頃にはもう悲鳴を上げていた。ショウも目を向けると料理が圧倒的に不足していて唐揚げは勿論、ラーメンサラダ、魚のムニエルの消失率も7割を超えていた。
「その二はお皿を使ってでも均等に盛り付けるべきだったな、そうしたら今の惨状は免れたかもしれないしね。」
ーー確かにその通りだ、とショウは思い頭を抱えたくなった。いくらお皿が足りないと言えど、ふんだんに使うべきだったかとショウはひしひしと感じた。調理場の戦場もそうだがーー此処、テーブルでも仁義無き戦いが繰り広げられている食事戦争と化している。まあ私はショウの料理を食べられたからお腹いっぱいだよ、と甘い声で囁いて、ショウの横に移動した。
ショウも羞恥心に戦いながら他人事の様にテーブルの有様を見ていた。ハルベロス国最強のチーム、ーー名前のない怪物の面影は今は全くと言っていいほどに無くなっていた。
「ここは私がキープしていた、退いてて、腐れ外道。」
「そんなこと誰が決めたのよ!早い者勝ちでしょ!」
「は、はっ箸が無くなった!」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!髪引っ張らないで!」
「知らないわそんなの、私はカケルの料理を食べたいだけなの、カケルの料理を食べれないのは私の性癖が許さない。」
「どんな性癖!?じゃあ私もダイの食べなきゃ性癖が許さないわ!」
「どんだけ食べる気!少しは遠慮とか自重とかは知ってくださいー!」
「あああもう!髪引っ張らない必殺技使わない!ーーうわあああ!!」
どったんばったん
ルナの光輪之矢が眩い閃光を放ちながらショウの部屋に降り注ぐ、それに負けじとコスモも武器のコスモスを取り出してルナを一瞬の仮死状態に陥れようとしているが一進一退の攻防でどうなる事も無く体力を消耗するだけであった。そしてルカの方は何も出来ずにあたふたするしまいだった。
ショウはそれを見つめていて内心で量を多くするべきだったと痛感しながら感じた。
そしてテーブルの向こうでは料理を争奪するために血眼になって戦争を繰り広げている、それも気づかずに眠っているカケル達がどれだけ疲れていたのかが分かるであろう。
でも、まさかチャイミーに指摘されるとは思わなかった。チャイミーはこんなに華奢な身体付き、オマケに美女だ。しかし契約者の中では結構食べる方だが、チャイミーには太るという概念はない(どんなに食っても太らないってどんだけ魔力が溢れ出てるんだよ)
軈てテーブルの品は全てなくなり疲れ果てた三人はその場でパタリと仮死状態になった如く眠ってしまった。ーーもう片付けるのも面倒臭い、ショウもフラフラとベッドに吸い込まれてフカフカの羽毛の毛布にくるまった。この毛布、シーツもだがこれにチャイミーが裸でくるまっていたなんて考えもしていなかったが現実、くるまっている、その証拠としてチャイミーがくるまったベッドは酷くいい匂いがして眠り薬のような気がした。それに乗っ取ってショウも意識がなくなりベッドに倒れ込んで眠ってしまった。今ここで起きているのはチャイミー1人のみ、何もするにも暇だったので取敢ずショウと添い寝をする事にした。
ショウの華奢な身体をまじまじと見て、そして可愛らしい寝顔を観察する。ショウのぐっすりと眠っている姿を見ると安心感が持てるというか今日も生きててよかったみたいな変な事を考えてたりする。幼少の頃は記憶は無いけど生きるのも辛かったしいっそのこと死にたいと何度も思っていた事だけは覚えてたから.....。本能的にチャイミーはショウを抱き寄せて眠りについた。
そこから何時間の時が過ぎただろうか、もう時計の針は午後の五時を軽く上回っていた。そして寮の外でドタバタという足音と急げ!という長官の声、よく耳をすましてみるとハルベロス学園内から盛大に鳴り響くサイレンの音、もう停戦は終結していたのだ。その音で目が覚めた契約者一同は素早く準備を開始した。
名前のない怪物もハルベロス学園の生徒の慌ただしさに便乗してナナシ、コスモ、ルカが待ち受けている名前のない怪物専用の講堂室に向かう。
ドアを開くとナナシが巨大な地図を広げていた。その両端にコスモとルカも存在していた。
「まず戦闘を行うに当たって大事なことは殺す事じゃないのね、如何に戦闘を指揮している少佐などを殺して、その下っ端兵を屈服させるかが大事なんだよ、いわゆる“狙い撃ち”みたいなのと同じ原理だよ♪」
「そして同じくアバターが現れた時も落ち着いて対処すれば直ぐに壊す事が出来ると思うわ。」
「後は伝達される作戦(ミッション)には従う事ね!今ある状況を配慮しての伝達って事は覚えといてね!あと、絶対に死なないで」
ルカの最後の重く、冷気を帯びた言葉に素直に皆は頷いた。次の作戦は占拠された難攻不落の要塞“グソー”らしい、グソーの噂は名前のない怪物達も一度は聞いたことはある、守備と攻撃が堅く、どんな軍隊でも落とす事が出来ないと言われている名が通った要塞だ。そのグソーは占拠された為今は“守る側”から“落とす側”になったのだ。
難攻不落と言われている要塞を落とすのも悪くない、名前のない怪物に充分に合致している作戦だとチャイミーは思う。
その奪還作戦にはハルベロス学園の生徒も協力するというらしい、手伝ってもらって契約者である最強の部隊が連合軍を敗北に至らしめるなんて充分名前のない怪物にあった作戦だ。そして作戦のスタート地はレーダーに映らない程度の森林地帯から始まり、そこから連合軍の陣地を蝕みながら最終的にはグソーの真ん中の作戦室で終わるのだ。
三人は一から十まで覚えろとは言ってはいないが半分くらい覚えておけば何とかなるであろう。流石に通達もしてくれるはずだ。
「じゃあ頑張ってくださいね!健闘を祈っておりますッ♪」
そのグソー要塞はハルベロス学園の校庭の横の駐車場に名前のない怪物専用の飛行機があるらしく、それに乗っていくらしい、それは最後の最後まで気づかなかったことなのだが。
飛行機の気圧の反動で耳が痛い頃
ショウは名前のない怪物は唯一のハルベロスの希望と思っているのか、だから何気なく少しかっこいい言葉を口に出してみた。
「我ら来たれり」
チャイミーも少し不思議そうな顔を浮かべたが問題は無い、飛行機に揺られる中、難攻不落の要塞、グソーへと向かった。
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