第3話

「おい、藤澤!」

私はハッとして、キーボードから思いっきり手を離して振り返った。私のすぐ後ろの窓を閉めながら、おおっと小さな声を発し、驚いた様子の冴島課長が私の目の前にいた。

「なんだ、聞こえてなかったのか。どれだけ熱中してるんだ、まったく。それにしても冷房付けてるのに、また窓開けてるなんて。冷えるなら何か羽織れって毎回言って…。まぁいい、神岡様のプレゼンが出来上がってるのか何回も聞いていたんだぞ。…まあその様子だと、聞くまでもないか。藤澤のことだ、もう終わって次の仕事に取り掛かってるんだろ。人の声も聞こえないくらい、パソコンにかじりついているんだもんなぁ」

「ああ、すみません。また集中しすぎてました。神岡様のプレゼン資料は全て終わっています。石渡様のプレゼンもあと20分ほどで終わります。追加の仕事ですか?」

「ハハハハ。違う違う。たまにはかわいい部下たちと飲みに行ってやろうと思って。玉木を誘ったら、しっぽ振って連れてってぇ、って顔してさ。お前のことも誘えってさ。プレゼン終わってるなら、定時で上がれるだろ。」

ふと、真反対の窓際に目をやると、玉木がこちらを見ながら、にやにやしているのが見えた。小さくグーを上下に振っている。行こう行こうの合図だ。私は、もう仕方ないなぁという顔を作りながら、小さくグーを振り返し冴島に答えた。

「はいはい、行きますよ。いや、私の上司である冴島課長に是非お供させていただきます。」


締め切った窓の外では、蝉が鳴いている。またこの季節がやってきた。

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とらうま @hana-fuji

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