第2話

「お姉ちゃん、こっちこっち」

木々の中に消えていきそうになりながら、寸前のところで立ち止まって振り返る、さやの姿に私は、「待ってすぐに追いつくから」と重い足をゆっくりと前に出していた。

「あっちの、光が差している方に行ったら何があるのかな。この間、反対方向に向かったら関口さんの家のお庭に出たんだよね。ぷーこがワンワン吠えるから冒険気分が台無しだったんだもん。今日こそは秘密基地を作る場所を見つけるんだから。さや探検隊ゴー!」

無邪気に笑う彼女に、お姉ちゃんについておいで見つけてあげるから、なんて言えないでいる私は何なのだろう。私たちの家の後ろには、まあまあな雑林が広がっていて、幼い頃にはよく近所のお友達と探検隊を結成して、この鬱陶しい林を攻略しようと、毎日のように、秘密基地を作れる場所を探してあっちへこっちへせっせかと動き回っていた。その当時さやはまだ本当に小さくて、チョコチョコと私の後を追いかけてきていた。さやは家で待っていなよ、と突き放しても、お姉ちゃんと一緒がいいとぐちゃぐちゃに汚れた小さなくつで、いつまでもいつまでも私の後を追いかけてきていた。そのときの私は、そんなさやの手を引き、姉として逞しさを存分に発揮していた。あのときが一番、「姉」であったと思う。

自分にもどかしさを感じながら、目を輝かせて前へ前へと進むさやの後を、今は黙ってついていくだけだった。

「お姉ちゃん、あそこ!見て!あそこだけ、木がないよ!」

そこは、木々がたまたま避けて生えたのか、4畳半ほど空間で、林の中にぽっかりと空いていた。この生い茂った木と木の間に、スポットライトのように太陽が射す。この雑林は隅から隅まで把握しているつもりだったのだが、こんな空間がまだあったのか。幼い頃の私の探検隊が見つけられなかった場所が、今ここに存在した。

「ここ、さやの秘密基地にする!お姉ちゃんは、いつでも来ていいよ。ここは、さやとお姉ちゃんの秘密基地」

ビニールシートを広げながら、私に向けるその満面の笑顔を、午後の背の高い太陽がそれはそれは眩しく照らしていた。

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