とらうま
@hana-fuji
第1話
私は何も持っていなかった。持とうとしなかったのか、持たせてもらえなかったのか、持っていることに気が付かなかったのか、分からない。それでも私は、何も持っていなかった、そう思う。
「また、体育だけBなの?さやちゃんはBもらってきたことなんかないのにね。お父さんはスキーにテニス、お母さんだってなんでもできたのに。なんでなのかしらね。」
ピンクの花びらに躍らされ、くすんだ赤色のランドセルが、やっと体型に似合うようになったのも3ヶ月前。ジリジリだかミンミンだか知らないが、今鳴かないといけないという使命感に駆られているのか、まったく耳障りとしか言いようがない季節が、またやってきた。私の母の娘さやちゃんは、まあ言うなれば私の妹であるのだが、小学6年生の私でも思うほど、それはそれは「良い子」であった。
「お母さん、今学期の体育はさやの得意なかけっことドッヂボールだったから。お姉ちゃんはたまたま苦手なかけっことバスケットボールだっただけだよ。そんなふうに言わないで。たまたまなんだから。」
「そんなふうにって、お母さんそんなつもりで言ったんじゃないから。のぞみも頑張ったのよね。もちろん分かってるわよ。」
「お姉ちゃん、外でバドミントンしようよ。今日こそお姉ちゃんにバドミントンで勝っちゃうんだから。」
私は子供ながらに、この季節がやって来ることが、心の底から嫌で嫌で仕方がなかった。
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