第45話 部下たちは
「なんとも思わない、なんてことはさすがにない」
あっさりと告げられたガレオスの言葉を聞いた隊員はなんだ、やっぱりかとため息をつく。
「それぞれが無事にいてくれればいいと思っている。様々な理由でここに集まることはなかったかもしれないが、俺たちは仲間だ、そして家族だ! だったら、心配するのは当然だろ!」
だがにかっとした笑顔を見せた彼の言葉が予想外の言葉であったため、その場にいた隊員たちはぽかんとした表情でみな驚いていた。
「あの、みなさんの中にはガレオス隊長と話すのが初めての方もいらっしゃると思いますが……こういう方なんです。裏も表もなく、さっきの言葉が隊長の本心です」
こういう反応には慣れているフランが驚く隊員たちに苦笑交じりでガレオスのことを説明していく。
「ん? こんなことで嘘をつく必要がないだろ?」
首を傾げたガレオスは自分では当たり前のことを言ったと思っている。
「はい、こういう方なんです」
そんなガレオスを微笑みながら見たフランが改めて先ほどの言葉を言った。
その意味がわかったのか、隊員たちは全員苦笑していた。あれだけの力を持つ人がいざ話してみれば裏表がない真っすぐすぎる人であることに、驚きを通り越して笑うしかなかったようだ。
「……わかりました。そうなんですね、まあ、そうですよね。自分たちはここに来ることを自分自身で選びました。それなのにどうこう言うのはずるいですよね」
質問した男はガレオスの言葉を聞いて、吹っ切れた様子だった。それは他の隊員も同じであり、来なかった隊員への不満は消えていた。
「やはりガレオスはすごい男じゃのう。あれを素で言えるんじゃから、人もついていくというもんじゃな」
彼らのやりとりをあとから来たイワオが扉の外で聞いており、ガレオスのことをそう評価していた。いざとなれば自分が話をしようと思っていたところのガレオスの言動は、思ったよりもいい方向に進んだようだった。
「わしもがんばらねばならんな」
自然と笑みが顔に浮かんだイワオは声をかけずに静かにその場を後にした。
ガレオスはただ顔見せに来ただけだったが、期せずして士気を高める結果となった。
それに最後まで気付かないまま、ガレオスもフランとともに彼らの元を後にする。最初緊張していた隊員たちはみな穏やかな笑顔でガレオスたちを見送った。
「みんな物分かりがよくて助かったな。うむうむ、やはり騎士団のやつらはいいやつばかりだ」
満足そうに頷く彼の目には先ほどの隊員たちのことがそう映っていた。
「いい方々という部分は否定しませんが、それもガレオス隊長のお言葉あってのものかと思いますが」
「そうか?」
自身のもたらした結果に気づいていないガレオスへフランがそう声をかけるが、ガレオスはいまいちピンとこない様子だった。
「はあ、そういうところが隊長の長所なんですけどね。それはそうと、これからどうしますか? リーナ姫の動向が決まるまで、我々にできることもそうないと思いますが」
フランの質問にガレオスは隣を歩きながらしばし考え込む。
「……うーむ、特にこれというものはないから、訓練をしてもいいかもな。バーデルと対魔法の訓練をしてもいいし、他の隊長たちと戦闘訓練というのも悪くないな」
身体を動かすことが好きなガレオスは時間を有効に使うために、訓練を提案する。
しかし、フランは返事をせず考え込んでいた。
「どうした? 訓練は嫌か?」
いつもならすぐに返事を返す彼女にしては珍しい反応を見せたことに、ガレオスはきょとんとしながら問いかける。
「あぁ、すいません。ちょっと考え事をしていたので……時間がどれくらいとれるかにもよるのですが、第七隊の仲間たちの捜索をするのはいかがでしょうか?」
フランは先ほど隊員たちを訪ねた際に隊員たちの顔を確認していたが、その中に第七隊の者はいなかった。副長として自身の隊員の行方を気にするのは当然のことであった。
「あいつらに会いたいなあ」
通常、どの隊に配属されるかは武源開放時の武器種によって決められる。第一隊であれば剣、第二隊であれば弓、第三隊は槍、第四隊は治療能力、第五隊は拳、第六隊は騎乗能力となる。
しかし、第七隊はこれらの種別から漏れたものをガレオスが見出して選んでいた。それゆえに、部下に対する思い入れが強かった。会いたいというその言葉にもその思いの強さが感じられた。
「みなさん能力は高いので無事だと思われます」
それは希望も含んだ発言だった。フランの頭の中では隊員たちの顔が浮かんでいた。
「そうだな、あいつらならそうそうやられることはないだろうな……」
そう言ったガレオスの表情はどこか優れない様子だった。彼らの強さはガレオスたちが一番よく理解していたが、同時に気にかかる存在でもある。そしてその中でも一人、ガレオスの記憶の中に思い出される人物がいた。
「……ムラカミさんですね」
同じ顔が思い浮かんだフランが出した名前は第七隊三位隊員の名前だった。
「あいつは俺たちが依頼に出ている間、一人城に残っていたはずだ」
城が襲われた際に、城に残っていたはずの隊員の情報は誰一人として知られていない。そして状況から察するに恐らく全員が死んだものと考えられていた。
「ですが、ムラカミさんならきっと……」
フランは第七隊二位であり、順位でいえばムラカミの上だったが、フランが二位の座にあがるまでずっと副長を務めていたのがムラカミだった。ゆえに彼の実力は副長クラス以上であるといえる。
「あぁ、俺もあいつの力は信じている」
それでも彼らは心配だった。あの時、隊長格が全員出払っている城に魔法王国の手練れが襲いかかった。名目上はクーデターを起こした隊長たちから国を取り戻すというものだった。
その際の戦力にはもちろん八大魔導もおり、それとまともにやりあうには隊長格でなければ難しかった。
「だが、あいつは他のやつらのことをきっと守りながら戦っていたはずだ。そこを狙われたとしたら……」
普段のガレオスには似合わない後ろ向きな考え方であった。信頼している彼のことを思えば、どう行動したかは想像に難くない。
「はあ」
そんな彼を見たフランがため息をつく。
「ガレオス隊長! しっかりなさい! ムラカミ副長補佐はあなたが選んだ隊員でしょう!」
ひとつ大きな息を吸った彼女から出たのは力強い叱咤激励の言葉だった。あまりに突然だったことでガレオスは目を見開いて驚いている。
「ならば、彼を見出したあなたの眼を、選ばれた彼の力を信じなさい!」
滅多にないガレオスの弱気を見たフランは彼のことを両手を腰に当ててきりっと睨んでいた。
「お、おう」
これまた滅多に怒ることなどないフランの言葉に驚き、おもわずガレオスはどもってしまう。
「いいですか? わかったなら、いつもの通り前向きに戻って下さい。それが隊長のあるべき姿でしょう!」
「わ、わかった」
ガレオスに食ってかからんばかりのフランの勢いに飲まれた彼はそう返事をするしかなかった。
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