第46話 リーナの決断
翌日
ガレオスたちは再びイワオの部屋に集まっていた。
「あー、みんないいかの? 朝から集まってもらったわけじゃが、その理由は嬢ちゃんのほうから話してくれるとのことじゃ」
イワオはリーナの背中をそっと軽く押して、一歩前に出るよう促した。
「あ、あの、みなさん朝早くから集まって頂いて申し訳ありません」
おずおずと喋り出したリーナは深々と頭を下げた。その表情からは緊張が伝わってくる。
「リーナ、決めたのね」
リョウカは昨日の軍議のあとにリーナと話していた。その時には結論が出ず、自分で考えて決めることを伝えていた。
それを聞いてリーナはゆっくりと頷く。前を向いた彼女からは凛とした佇まいが感じられた。
「私、リーナレシアは……第三王女として、あなた方の旗頭になりたいと思います! 私には色々な経験が足りませんし、今の決断にしても覚悟が足りていないかもしれません。それでも、王女としての務めを全うしたいと思います!」
みんなに言われた言葉を一晩かけて考え抜き、下した決断がこれだった。
「本当にいいのね?」
質問するリョウカは真剣な表情をしており、その目は真っすぐにリーナのことを見ている。
「はい、リョウカさん。これまで色々とありがとうございました。これからもご迷惑かけるかもしれませんが、よろしくお願いします!」
ぺこりと勢いよくリーナは頭を下げる。あげた顔は花の咲くようなきれいな笑顔だった。
「わかったわ、私たちの国の奪還に、そしてリーナ、あなたのサポートに全力を尽くすわ!」
返事をしたリョウカの表情も吹っ切れたような笑顔に変わっていた。この数年ずっと一緒にいた彼女たちならではの意思の疎通だった。
「ふむ、リーナがそう選択したのならば俺たちは全力で国を取り戻すだけだ」
王女として生きるか、一人のリーナとして生きるか。どちらを選択したとしてもガレオスは彼女の意思を尊重するつもりだった。どんと構えた彼からも全力でこれからのことに立ち向かう覇気が感じられた。
「そうだね、姫が覚悟を見せたんだ。あとは僕らが本気で戦って結果を見せる番だね」
ショウもガレオスと同じスタンスでいたため、彼女の覚悟に見合う戦いをすると決めていた。
「私も同じです」
エリスの言葉は少なかったが、気持ちは他の隊長たちと同じだった。
「ふむ、それならわしらの行動は決まったのう。城の奪還に動くぞ!」
イワオの宣言に部屋にいる全員が深く頷いた。
「それで、いつ出発するんだ?」
みんなの気持ちが固まったことを感じたガレオスの質問の答えに全員が注目していた。
「すぐに、と言いたいところじゃが、装備の点検に準備、それから回復アイテムの用意なども必要じゃろ? じゃから、そうじゃな……一週間後といったところかのう。その間にわしの部下には騎士団員の捜索を続けてもらうことにする」
それは妥当な判断であり、反論の声はあがらなかった。
「それでは、各自この街で準備を整えるように! 職人たちにはわしのほうで話を通しておく。今日の午後であれば、お主らに協力するようにいきわたっておるはずじゃ」
職人の街であるここには、武器、防具、道具など数多くの凄腕の職人がいるため、準備するにはうってつけの街だった。そしてギルドマスターとして築いたイワオの人脈によって職人たちがその技術の全てをつぎ込むと約束してくれていた。
「それは助かるよ。僕の場合は武源が騎乗具だから、戦うための武器が必要になるからね」
ショウたち第六隊はそれぞれが騎乗具に乗っての戦闘スタイルであるため、武器は別途用意しなければならなかった。
その他の面々は防具や道具の用意に頭を巡らす。
「フラン、道具は頼めるか? 俺は武器と防具を探しにいってくる」
ガレオスは巨漢であるため、どうしても自分用の防具が特注になってしまう。しかし、この街であれば自分にあった防具が見つかるかもしれない、もしくは作ってもらえるかもしれないと考えていた。
そして、ガレオスは道具類に関しては何を用意すればいいのか細かく考えることが苦手なため、フランに一任することにする。
「承知しました。隊長の分も道具類は用意しておきますね」
フランはそう言われると予想していたのか、よどみのない返事を返した。すでに彼女は的確に何が必要なのか思考を巡らせていく。
「はあ、フランは本当にいい副長ね。他の隊の副長にも見習わせたいものだわ」
他隊ではこのように秘書的な役割をすることは珍しかった。
「がっはっは、そうだろ? やらんぞ!」
ガレオスはフランの有能さを理解していたため、にこにことそう答える。
「ぐう、もとはといえばうちの隊にいたのに……」
悔しげに彼を睨むリョウカの言葉のとおり、フランは元々第三隊の所属だった。
フランの武器は戦斧であり、第一隊から第六隊のどれにも当てはまらない。ただ長物であるという理由だけで、第三隊の所属となっていた。もちろん彼女自身は当時から優秀ではあったが、槍の隊で上位にあがるのは難しかった。
「そのせつはサカエ隊長にはお世話になりました」
フランがリョウカに向かって深く敬意を示すように頭を下げる。実際、リョウカはフランのことを買っており、ずっと気にかけていたがそれが裏目に出ることとなった。槍の部隊で一人だけ違う武器を扱う彼女のことを隊員たちは腫物のように扱っており、リョウカが気にかければかけるほど、他の隊員からフランはよく思われなかった。
「はあ……結局私のやり方じゃ、あなたの才能を埋もれさせることになったのだから、隊長としては私よりガレオスのほうが上よね」
ガレオスが第一隊の隊長を辞め、第七隊を立ち上げる時に真っ先に勧誘したのがフランとムラカミの二人だった。第一隊を辞めたガレオスはどの隊にも所属しない武源を持つものを集めた隊を作るつもりでおり、その初期メンバーとして二人が必要だと考えていた。
「がっはっは、褒めても何もでんぞ。それに、優秀なのは俺ではなくフランだからな。他のやつもそうだが、うちの隊は優秀なやつが揃っていて助かる」
それはガレオスの本心だったが、他のメンバーも元いた隊ではうだつが上がらなかったため、それを見出したガレオスに全員が感謝していた。どこか居場所がないと感じていた自分たちにその場所を作ってくれた彼を慕うのは自然の成り行きだった。
「ははっ、ガレオスさんはやっぱりこうでなくっちゃね」
各隊の隊長たちはガレオスの人柄を知っており、その存在を好ましく思っていたため、ショウも相変わらずの様子のガレオスに喜んでいた。彼にとって、どんな状況でもただ真っすぐ前を向いているガレオスの姿には眩しささえ感じられた。
「ガレオス隊長は、すごい、です」
その隣ではエリスは顔を赤くながら、少し離れたところでリョウカやリーナと話すガレオスのことを幸せそうに見つめていた。
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