第44話 もう一人の姫

 リーナは答えを出せずに部屋をあとにした。

「ふむ、あの年齢で国を背負えというのも難しいじゃろうな」

 イワオは彼女が背負う運命に同情している。

「リーナがどっちを選択したとしても、俺は構わんがな。やりたくないことを無理にやらせても仕方ないだろう。リーナが断ったとしても、何かしら手はあるものだ」

 出て行った扉を見ながら、ガレオスはあくまでリーナの意見を尊重する考えのようだった。


「そう言うってことは、あなた何かいい案はあるんでしょうね?」

 リョウカがジト目でガレオスを見ながら質問する。

「がっはっは、あるわけがないだろ。そういう小難しいことは、爺さんやフランが考えることだ……だけどな、あの子が受け入れるのが当たり前って考えて、それ以上の考えを止めるのは間違っているだろ」

 無責任な発言のあとに、最も彼女のことを考えている発言をする彼に一同は唸って黙り込んでしまう。


「とにかく、戦争のやり方はさっき爺さんが言った方法で行くぞ。あとは、リーナの決断を待ってその後のやり方を決めればいい」

 ガレオスは自分の言ったことに自分で頷き、納得していた。

「はあ、全くガレオスさんには敵わないね。確かにリーナ姫に関してはそれが一番だよ。国や家族を失う辛さを味わって、今度は戦争するから旗頭になってくれって、それこそ辛いよね」

 肩の力を抜いたショウは既にガレオスの考えを支持する立場をとっていた。


「ここ数年護衛で一緒にいたけど、リーナは城にいる頃よりずっといい顔をするようになったわ。だから、彼女には選択を間違ってほしくないわ。彼女が幸せになれる道を選んでほしい」

 リーナと最も長い時間を共にしたリョウカはやはり、リーナの意思を尊重するつもりらしい。どれだけ悩んでもいいから姫としてではなく、自分の気持ちに素直になって欲しいのだろう。

「私も、リーナ姫には選びたい道を自分で決めて欲しいです」

 同性のエリスも同じ立場をとる。


「ほっほっほ、わしも同じじゃよ。じゃが、わしらの旗になって欲しいのも本当じゃ……なんにせよ嬢ちゃんの選択に任せることにするかのう」

 穏やかに微笑んだイワオがそう言って締めくくろうとする。

「……あの、提案なんですがもしリーナ様が断った場合、第四王女のミカリア様を探すというのはいかがでしょうか?」

 フランが新たな提案をする。ミカリアとはリーナの妹であり、今もその行方は不明で、一説では死亡したとも伝えられている。

「見つかればよいが、そもそも生きておるかわからんじゃろ?」

 イワオもミカリア姫の死亡の噂を聞いていたため、眉を寄せながらフランに尋ねた。


「確かにその噂は私も聞いています。ですが、あくまで噂だと思います。ミカリア様もリーナ様のように城から遠く離れた場所に出ていたはずですので、もしかしたら……」

 フランは小さいながらもありえる可能性を口にしていた。どこかで生きていて欲しいという願いもその言葉に込められているようだった。

「そもそもフランも死んだという噂が流れていたくらいだからな。だけど、実際にはこいつは生きている。だったら、ミカリアも生きている可能性はあるんじゃないか? リョウカがリーナの護衛についていたように、誰かが近くにいるかもしれない」

 確かにミカリアの死は噂であり、その死を直接確認した者の話は出てきていない。ここにいない武源騎士団の仲間が守っている可能性もあり得なくはないのだ。


「だけど、さすがにどこにいるのかわからないんじゃ探しようがないよねえ。エリスのとこだって情報ないんでしょ?」

 ショウの言葉に諜報が得意なエリスは頷く。

「私のほうでも聞いた噂はミカリア様が亡くなったという話だけです」

 淡々と報告するエリスは表情を変えなかったが、ガレオスには表情が陰ったのが見えた。

「エリスにも悟られないほどうまく情報を隠しているということだ。俺たち以外の隊長がついている可能性もあるだろ」

 情報を掴めていないことにふがいなさを感じていたエリスはガレオスがフォローしてくれたことに内心喜んでいた。


「ふむ、ではリーナ嬢ちゃんの選択次第ではそちらをあたってみるとするか。可能性は低いかもしれんが、わしらだけで城に突っ込むよりはいい方向に進むじゃろうからな」

 顎に手をやりながら頷いたイワオはフランの意見を採用していく。作戦成功への道筋は多くあった方がいいと考えての結論だった。

「期間を決めずにいつまでも一緒に待つことはできないだろうから、リーナには私のほうでも少し話をしてみるわね」

 リーナが一番心を開いているのはリョウカであるため、誰も反論はなかった。

「うむ、任せたぞ」

 イワオはリョウカに任せると、軍議は終了となる。


 ガレオスとフランは戦力の確認のために、他の副長以下の騎士たちを確認に向かう。彼らは近くのギルドが所有している建物を宿にしていた。

「おう、入るぞ」

 建物に入ると、中にいた面々が立ち上がり、次々にガレオスとフランに敬礼をしていく。

「あぁ、気にするな。楽にしてくれていいぞ、俺らにそういうのはいらないから」

 ガレオスが彼らに声をかけると、姿勢を楽にする。彼らが入って来た時に広がった緊張感が少し緩んだ。


「いつになるかわからないが、俺たちは城を国を取り戻すために動くことになる。そのためには一緒に戦ってくれるやつらの顔を確認しておきたかったものでな」

 順番にひとりひとりの表情を確認していくが、ここに集まるだけのことはあり、みな一様に気合に満ちた表情をしていた。

「おう、やる気満々だな。よかったよかった、これならいけそうだな。あー、一応言っておくがここにこれなかった元騎士団員たちのことを悪く思うなよ? 来られないやつらにはやつらなりの事情がある。例えそれが、面倒だからといったものだとしてもそれは責める理由にはならんからな」

 中にはここに来ていないやつのことを快く思っていないものもおり、それをガレオスに指摘されたためビクリと身体を震わせていた。


「やっぱりいたか。別にそう思ってもいいんだがな、お前たちがここに来ると決断したように、あいつらがここに来ないと選択するのも尊重されるべき決断だ。だから、あいつらが戻って来た時にそう思う気持ちをあいつらにぶつけるなよ。もし、来ないやつらのことをどうこう思うようなら、今すぐそいつもここから去るべきだ」

 実際、貧乏くじを引いたと思っている者もいたため、ガレオスの言葉が強く刺さっていた。騎士としての義務感として出て来た部分を見透かされたような落ち着かない気持ちになったのだ。

「あ、あの! 隊長はここに来ていないやつらのこと、なんとも思わないんですか?」

 その中で一人だけ、戸惑いながらもガレオスに質問する者がいた。

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