第35話 新たな仲間

 抵抗をやめたバーデルに対してガレオスは近寄って質問をする。

「あんた、すごい威圧感だな……」

 自身より明らかに大きい体格とその強面に気おされて、バーデルは怒りに満ちていた先ほどとは違って冷静になっている。

「そうやって静かにしていると、お前も冷静で実力者に見えるんだがな……」

 ガレオスは先ほどの戦いの時の彼を思い出して、そう評した。


「あー、あれな。戦いになるとテンションがあがるのと、八大魔導ともなると部下たちの目があるところで弱気な態度は見せられないんだよ。今は誰もいないから、強がる必要もないからな」

 立場が変わるとそんな苦労もあると彼は語る。

「まあ、わからなくもないが……あれはちょっと頂けないな」

 それほどに見苦しい態度であったとガレオスは感じていた。


「……俺の恥ずかしい部分を突っつくのはそのへんにして、質問をしてくれると助かる」

 きまりが悪いバーデルはこれ以上余計なことを言われたくないため、話を軌道修正する。

「そうだったな、じゃあ順番に聞いていこう。なんでお前があの場所にいたんだ?」

 砦の責任者が別にいたことは既にリョウカとフランに聞いていたため、八大魔導がわざわざここまでやってきた理由が疑問だった。


「修道院を攻め落とすのにてこずっているようだったからな、一番下っ端の俺にお鉢が回ってきたってわけだ」

 彼は八大魔導に選ばれたばかりで、実力的にも最も下だった。そのせいでこういう前線に一番に駆り出される立場だった。

「なるほどな、昔に八大魔導の一人に会ったことがあるが、あいつは異常な強さだったからな。使う魔法も半端じゃなかった……ゼムルとかいったか」

 ガレオスは武源騎士団時代に八大魔導の一人と戦ったことがあり、その際の決着は引き分けだった。

「ゼムル爺さん!? あんた、あの爺さんと戦って無事だったのかよ。とんだ化け物を引き当てちまったな」


 目の前の男から出てきた名前にバーデルは驚いていた。

 ゼムルといえば八大魔導序列二位の実力者であり、魔法の実力だけでいえば序列一位を超えるとも言われていた。

「なかなかやばい爺さんだったな。俺が勝てなかったのは後にも先にもあの爺さん一人だ。まあ、負けもしなかったが」

 ガレオスはただ事実だけを口にしたが、バーデルをビビらせるには十分な効果があった。

「私からもいいかしら。なぜ魔法王国は修道院に攻め込んでいるのかしら? あそこは基本的には中立地域だし、修道騎士も敵に回したほうが面倒でしょう?」


「あそこな。俺も最初は疑問に思ったんだが、なんかあそこには東にあったサングラムって国の姫がいるとかって情報があってな。曖昧な情報だったんだが、修道院は魔法王国の支配下に入らないから、姫がいなかったとしても潰せれば俺たちには徳があるからな」

 リョウカの質問にもバーデルは抵抗することなく答えていく。バーデルは彼女からも、ガレオスと同等の実力を感じ取っていた。今は拘束されている身であり、ここで一人暴れたところで敵う相手ではないと判断したのだ。

「なるほどね、あとは彼女からの細かい質問に答えてもらうわ」

 そう言って質問者がリョウカからフランへと交代する。彼女の質問は魔法王国の現在の戦力の確認、そしてサングラム王国に駐留している戦力の確認だった。その情報を漏らすことは国を裏切ることになるが、彼は嘘偽りなく自分の持っている情報を答えていく。


「……色々と情報を教えてもらって助かりますが、なぜあなたはこんなに簡単に答えてくれるのですか? 仮にもあなたは八大魔導の一人ですよね?」

 バーデルの答えを全てメモし終えたフランは純粋に浮かんだ疑問をぶつける。

「あー、元々俺は魔法王国の出身じゃないからな。八大魔導っていうのも、たまたま空きができて、その時偶然一番俺が強かったというだけだからだ。魔法学の留学後、そのまま滞在していただけで別段あの国に思い入れが強いわけじゃない」


「と、いうことらしいけど……ガレオス、フラン彼の言っていることは本当かしら?」

 リョウカの質問に、二人は頷いて返す。

「あぁ、そいつは嘘を言っていないようだ」

「そうですね、今のところの情報は信じられると思います」

 ガレオスは直感で人が嘘をついた時のことがわかり、フランは相手の表情の変化などで嘘を言っているかどうか判断できていた。


「ふうん、二人が言うなら信じられるわね。それで、あなたはこれからどうしたい?」

 リョウカの質問は漠然としたもので、バーデルは反応に困っている。

「どうしたい、って言われてもな。そもそも俺に選択権なんてないんじゃないのか?」

 彼の疑問も当然だった。バーデルは現在捕虜の立場であり、その能力のほとんども封じられている。その状況にあって、彼がこうしたいと希望を言ったところで通る状況ではなかった。


「うーん、私は別に解放してもいいと思っているわ。あなたの答え次第だけどね」

 リョウカの答えにバーデルとフランは驚いていた。

「……あんた、正気か? 仮にも俺はあんたとさっきまで敵対していて、末端といえども八大魔導の一人だぞ?」

 バーデルの反応はリョウカの予想通りだった。

「そうね……だから、答え次第と言ったでしょう?」


 どんな答えなら解放してもらえるのか。それがこの話の最大の問題点だった。

「俺もあんたの解放には賛成だ。さっきのあんたの話に嘘はなかったし、更に言えば立場を与えられたからその役割を全うしていたということだろ? だったら、立場が違えばこっちの仲間になるという選択肢もあるんじゃないのか?」

 ガレオスは彼を仲間に引き入れるというとんでもない提案をする。

 フランもバーデルもその言葉に驚くが、リョウカは楽しげににやりと笑っている。


「さすがガレオスね、私も同じことを言おうと思っていたところよ。あなた、八大魔導だけど私たちに捕まったって国にばれたらまずいんじゃない? 下っ端って言ってたから戻ったところでもしかしたら首を切られることになるんじゃないかしら」

 首を切られるというのは、職を辞めさせられるという意味だけでなく、本当に処刑されるという意味も込められていた。

「くそ、なんでもお見通しかよ! ちっ、わかったよ。あんたちにつく、ただ最低限の衣食住は保証してくれよ?」

 帰る場所がないのなら、なるようになれとバーデルは覚悟を決めてガレオスたちにつく決断をする。


「衣食はなんとかしよう。住は、国を取り戻せてからだな……」

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