第29話 新たな乱入者
ノックをして部屋に入ると、先ほどの騎士長と修道服に身を包んだ初老の男性がいた。
「おぉ、ガレオス殿にフラン殿。よくぞ来て下さった、こちらはこの修道院の院長をなさっているデルス様です」
修道騎士の責任者が騎士長だとすると、院長はこの修道院全体の責任者で全てを統括する存在だった。
「あなたがたが今回我々に手を貸して下さったのですね。本当にありがとうございました」
人の良さそうな顔の院長は、深々と頭を下げて二人に礼を言った。
「いや、気にするな。たまたま通りかかったら戦闘をしていたのでな、状況的に修道院に攻め込んでいるほうが常識に外れていると判断したんだ」
実際には目的があって修道院に来ており、色々と魔法王国に対して思うところもあるが、ガレオスはフランの念押しを思い出してあたりさわりのないことを口にしていた。
「なるほど、それはそれはありがとうございます。あなたがたがいなければおそらくここは攻め落とされていたことでしょう」
「攻め落とされていた?」
弱気な院長の言葉にフランが疑問を口にした。修道騎士といえば、他国の騎士団に負けないだけの力を持っているといわれている。それが攻め落とされるとは聞き捨てならない一言だった。
「それについては私のほうから説明致します」
ゆっくりと騎士長が口を開く。その顔は修道騎士の長である自分が説明すべきであろうと覚悟を決めた表情だった。
「我々修道騎士は本来であれば、他の騎士団や魔法王国の兵士にも負けないという自負を持っています。しかし、現在の我々はその力が弱まってしまっているのです……恥ずかしい話ですが、中心となる実力のある修道騎士の数人が他国に流れてしまっています。更には先ほどのように魔法王国に何度も攻め込まれて残った騎士たちも疲弊しきっているのです」
そう言った彼の表情には悔しさが浮かんでいた。ぐっと強く握り締めた拳からもその気持ちがひしひしと伝わってくる。
「つまり、次に魔法王国に攻め込まれた時が最後かもしれない、ということですね」
真実であるが、苦しい事実を口にされた騎士長は苦い顔で頷いた。
「そいつはなかなか厳しい状況だな。だが俺たちもここに常駐するわけにもいかないからなあ」
ガレオスはなんとかしてやりたいとも思ったが、自分たちにも目的があるため、それを叶えるのは難しいとも考えていた。
「……一つ質問があります。先ほどの魔法王国の兵士はどこを拠点にしてやってきてるのでしょうか?」
それまで静かに話を聞いていたフランが口を開く。領土が近いとはいえ、魔法王国の本国からここまではかなり距離があるため、どこかを待機拠点にして、そこから派兵していると考えられた。
「ここより北方に行くと、砦があるようです。砦といってもちゃちなものではなく、ちょっとした要塞とにいえるような代物でかなりの戦力を保有しているようなのです」
騎士長からそれを聞いたフランはここしかないと考え、一つの提案をする。
「それであれば、そちらの砦を私たちのほうでなんとかしましょう。その代わりに、あなたがたは私たちの望む条件をきいてください」
今まで砦を落とすことも考えなかったわけではない。だが要塞規模の砦を落とすのは簡単なことではない。だからこそその言葉に騎士長は驚いていた。
「あ、あの、なんとかとおっしゃいますが、さすがに砦をお二人で落とすというのは……」
それに返事をしたのはガレオスだった。
「問題ない、八大魔導が数人いるというのであればきついかもしれんが、やつらさえいなければなんとかなる」
今現在、この修道院が落ちていないことを考えれば、八大魔導はいないであろうという結論にいきついていた。
「そう、ですね。おそらく彼らは砦にはいないと思います。彼らは魔法王国の奥の手でしょうから、おいそれと前線には出さないかと」
考えるような仕草をしながらの騎士長の言葉は予想ではあったが、一つの事実でもあった。
「しかし、さすがに二人というのはきついかもしれません……」
フランとガレオスの二人であれば、砦一つ潰すことはできるという前提だが、それでもたった二人での戦いの場合、一瞬のミスが命取りになってしまう。自分たちのためにいきなり現れた二人に全て任せるのは気が引けるようで、院長はすっかり弱気な言葉だった。
「……私もいきましょう」
それは騎士長の言葉であり、今度は院長が驚かされる番だった。
「騎士長! それは、ここを放棄するということかね!」
ただでさえ少ない戦力、その中で中心ともいえる騎士長がここを離れてしまっては修道院の守りが手薄になってしまう。騎士長の判断は一種のかけであった。
「しかし、ここに籠っているだけでは戦力が徐々に削がれていく一方です。それならば、この近辺に詳しい私が彼らに同行して砦を潰す方が確実なのでは?」
「……それは、本当に可能なのかね?」
院長からは最初に見せた人の良さそうな笑顔は消え失せ、懐疑的な言葉を三人にぶつける。修道院のトップである彼には、騎士長がここを離れるという賭けにおいそれとは乗れずにいた。
「俺とフランの二人だけでも砦は潰せると思うが、そっちのあんたがいてくれればより可能性は高くなる。しかし、万が一八大魔導が砦にいたら……正直どうなるかわからん」
ガレオスは正直な判断を口にする。それはフランも同じ考えのようで、口を閉じていた。
「しかし、今まで八大魔導はここにきていません」
「だから、いないかもしれない、と?」
何を甘い考えを、そう言いたそうな表情で院長が質問する。上に立つものとしての責任が院長の厳しい態度に現れていた。
そして、その答えを待たずに院長は言葉を続けた。
「今回、我々が勝利した。それはガレオス殿という強大な戦力があったからだ、そしてそれはおそらく砦や本国に連絡がいくであろう。そうなったら、対抗策として八大魔導が出て来ても不思議ではないのではないか?」
ガレオスもフランも彼と同じ考えを持っていたため、次の言葉が出ずにいた。
しばしの沈黙がこの場を支配するが、それを打ち破ったのは扉の外の喧騒だった。
「ん? なにごとだ?」
部屋の前にいる騎士が誰かと言い合っている声が部屋の中にまで聞こえてくる。
「誰か来たようですね」
激しく言い合っている声はどうやら女性のようだった。そのやりとりも、バタンというなにか大きな音とともに静かになる。
そして次の瞬間には扉が開かれ、声の主が正体を現した。
「やはり、あなたたちだったの!」
彼女はガレオスとフランを見て、そう笑顔で明るく声をかけた。
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