第28話 修道院でのやりとり

「おう、あんたが修道騎士の隊長さんか」

 周囲にいる修道騎士たちとは一人、身に着けているものがやや違い、豪華な鎧だったため、ガレオスはそう判断した。彼はやや長い髪を後ろでまとめた美青年といった風体で、一見優男といった風だが、その肉体は細身ながらも鍛えられているようだった。

「はい、フラン殿から話を聞いて戦況に合わせて動こうとしたのですが、やつらが崩れていく様には驚きましたよ!」

 劣勢だった戦況があっという間にひっくり返ったことで、騎士長はやや興奮気味だった。

「あいつらくらいならなんとかなる。幹部連中が出てくると、今のままじゃ少し厳しいかもしれんがな」

 興奮している騎士長を気にすることなく、ガレオスは話をしながらもきょろきょろと周囲を確認している。


「何かお探しですか?」

 落ち着かない彼の様子を見て、フランが尋ねた。

「ん、あぁ、フランと別れたあとすぐに兵士たちに向かって大剣を投げたんだが……どこにいったものか」

 街の武器屋で譲ってもらったひと際大きな大剣。戦況を切り開くためにガレオスが投擲したその威力は強大だったが、それでもあれくらいでは壊れていないだろうと考えていた。

「悪い、ちょっと探してくる」

 あの女将が自信作だと言って使える者の手に渡るのが一番だと言って託してくれたそれはもはや彼にとって大切なものになっていた。だからこそガレオスは声をかけてきた二人を放置して、大剣探しに集中していた。


「すいません、ああいう人なんです」

「え、えぇ、いや、大丈夫ですよ。助けて頂いたことですし、武器は騎士の命ですからお気になさらず」

 あんなに果敢に戦いながらも自由奔放なガレオスに呆気にとられたが、騎士長はすぐにガレオスの行動に理解を示して彼の背中を見送った。

「私は騎士たちをまとめていったん戻ることにします。入り口に衛兵に話しておきますので、お二人は武器探しなどがおちついたら来てください」

 柔らかな笑顔を浮かべる騎士長によって、二人は修道院に入る許可が下りた。

「ありがとうございます」

 フランは頭を下げて礼を言いながらも、順調に姫に近づいていると頭の中で計算していた。


「いえいえ、頭をあげて下さい。あなたがたは恩人ですから、これくらいは当然のことです」

「わかりました。それでは、後ほど」

 騎士長は他の騎士たちに声をかけながら修道院へと戻っていく。

「さて、私も手伝いますか」

 その後ろ姿を見送ったのち、フランもガレオスの大剣の捜索に加わった。


 戦場はあちらこちらに魔法王国の兵士の死体が転がっており、大剣を探すのにも時間がかかっていた。

「うーん、このへんだったと思うんだが……」

 ガレオスはおおよその場所にあたりをつけて探していたが、なかなか見つけることができずにいた。

「場所がこのあたりだとすると……」

 フランはガレオスとは考えているビジョンが違った。彼女はガレオスが大剣を投擲する瞬間を移動しながらも見ていたため、どれだけの威力を持っていたか予想できていた。

 ガレオスは地面に突き刺さった大剣をイメージしており、フランは地面深くに突き刺さって柄しか見えない大剣を想像している。ガレオスは自分の力を甘く考えている節があるが、フランは冷静に彼の力を量っており、彼の力で投擲したのであればそれくらいになっていないとおかしいと考えていた。


 その考えは正しくフランが先に大剣を見つけることとなる。

「隊長! ありました!」

 ガレオスが慌ててフランのもとへとやってくると、そこには大剣を中止に小さなクレーターができており、柄の部分だけが見える状態で地面に突き刺さっていた。

「お、おぉ、こいつはすごいな」

 自分でやったことだったが、ガレオスは大剣の有様に驚いていた。

「隊長、これ引き抜けますか?」

 フランの問いの答えを見せるため、ガレオスは柄に手をかけた。


「せーのっと!」

 ガレオスはかけ声とともに剣を引き抜く。地面に割れ目を残したものの、大剣自体は無傷で彼の手元に戻った。

「おー、すごいな。ほぼ無傷だ」

 その言葉の通り、大剣には目立った傷などは見当たらず、すぐに戦いに使えそうなくらいである。

「よかったです。ドワーフの奥さんの自信作ですから、壊れなくてよかったですよ」

 せっかく譲り受けたそれを一投で壊してしまっては申し訳が立たないと、フランはほっと一息ついた。


「全くだな……それでこのあとはどうするんだ?」

 探していた武器が見つかったことで、憂いなく今後の行動についてフランに尋ねる。

「えっと、先ほどの騎士長さんが武器が見つかったら修道院に来てほしいとのことです。どうやって入りこむかという問題はとりあえずクリアした形ですね」

「そうか、ふむ。勢いで行動したわけだが、良いほうに転んだみたいだな。なんにせよラッキーだった」

「そうですね、本来ならば外部の人間が入るのはなかなか難しいですから」

 戦況を覆したガレオス、状況の説明を的確に行ったフラン。当然二人の活躍の結果なのだが、二人はただ幸運だったと判断するだけだった。


「なら行ってみよう。姫さんに会えるといいんだがな」

「……隊長、いきなり姫のことを尋ねたりしないで下さいね。まずは、ここの状況について聞いてからです」

 率直な彼の性格を分かっていたからこそ、念のためとフランが釘を刺した。

「お、おう、わ、わかってるぞ?」

 対するガレオスの反応はわかりやすかった。彼は中で先ほどの騎士長と話すことになったら、一番に姫はどこにいるのか? と聞こうと思っていたのだった。

「隊長……言っておいてよかったです。もちろん率直に聞いたほうがいい場合もありますが、修道院は普通の国や街とは別のルールで動いているので、ここは慎重にいきましょう」

 フランの言葉にガレオスは黙って頷いた。


 彼の率直さは美点であり、時に人の心を動かし、時に問題解決を早めることがあるが、今回はそれが必ずしも良い方向に結果が現れるとは限らなかった。

「基本的には私のほうで交渉をしてみますので、隊長は気になることがあったらその都度質問をして下さい」

 考えるのは副長のフランが担当し、直感で気になると思った部分をガレオスがピックアップする。この連携が彼らの隊に今まで降りかかった多くの問題を解決していた。

「うむ、いつもの通りだな」

 それをガレオスも理解していたため、素直に彼女の言葉に従うことにする。


 死体の山を通り過ぎて修道院の入り口まで行くと、衛兵は騎士長から話を聞いているとのことで二人の通行をすんなりと許可した。

「さてさて、このあとも問題なく話が進むといいんだがな」

 その呟きに今度はフランが無言で頷いた。

 修道院に入った二人は中で待機していた騎士の案内で騎士長の待つ応接室へと案内された。

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