第24話 いざ修道院へ
「それで俺たちはどこに向かえばいいんだ?」
ガレオスからの問いかけにイワオは一度立ち上がると、戸棚から地図を取り出してきた。
「ここがわしたちのおる街じゃ、そして姫嬢ちゃんがいるのはおそらくここじゃろう」
「そこは……」
広げられた地図を見たフランは表情を曇らせた。
示した先は予想外の場所ではなかったが、彼女の奪還は難しいであろうことが予想に難くない場所だった。
「修道院か」
ガレオスの言葉の通り、地図で指し示された場所にあるそれは修道院だった。
修道院はどこからも独立した組織であるがゆえに貴族の娘や王族が隠れる場所としてはありがちな場所である。しかし、それは同時に他からの隠れ蓑として優秀な働きをみせていることを表している。
「確かに姫様はあの修道院に一時期いたことがありますし、どこかから隠し通路が繋がっているという噂も聞いています。ここにいる可能性はかなり高いでしょう」
それはこの場にいる三人が三人とも理解している。だがこの修道院は他とは違う一面があった。
「しかし……」
「そう、フラン嬢ちゃんの言う通り。しかし、なんじゃよ」
「修道騎士か」
その修道院はただの修道院ではなかった。身分の高い家の子息が身を寄せるため、修道騎士という一国家戦力に匹敵する力を持っている。そこには例え家族であってもおいそれと入ることが許可されない場所であった。
「ガレオスも知っておるか。まあそれだけ有名ということじゃな。修道騎士だけでも問題なんじゃが、場所がちとな」
地図を見るとこの街からだいぶ離れており、ここから向かうにはモンスターが多く住むといわれている森を通る必要があった。
「この領地は、魔法王国領か」
ガレオスは修道院の北を指差した。
そこには魔法王国の領地が広がっており、残党狩りも行われている今となっては武源騎士団員にとっては危険な場所だった。
「そうじゃ、いくつもの問題を突破せねばならん……どうする?」
何を聞かれたかわからなかったガレオスはイワオの言葉に首を傾げた。
「ん? どうするもこうするも姫さんを連れてこないとならないんだろ? そして、俺はお安い御用だと答えたはずだ。だったらやることは一つ、修道院に行って姫さんを連れて帰ってくる、それだけだろ?」
それを聞いたイワオは一瞬驚きの表情を見せたあと、笑顔になっていた。
「ほっほっほ、やはりガレオスはガレオスじゃのう。どんな難題にぶつかってもお主がおればなんとかなるような気がしてきよる。ならば、姫嬢ちゃんの奪還を頼んだぞ」
「任せておけ!」
ドンッと胸を叩いてガレオスは依頼を請け負った。
「はあ、こうなってはやるしかないようですね。私もお供します、隊長だけで向かったら事に運ぶ前に修道院の方々に敵認定されてしまうでしょうから」
苦労性の副長を地で行く彼女は今回もガレオスを放っておけず、ため息をつきながらもついて行くことにした。
「おう、すまんな。俺もフランがいたほうが安心だ」
屈託のない笑顔で言う彼にフランは顔を赤くしていた。邪気のない笑顔を真っ向から見るのはむずかゆいものがあったのだ。
「二人には貧乏くじを引かせてしまうのう。第七隊の他のメンバーも見つかれば良いのじゃが……とりあえず、こちらも動かせる戦力が用意できたらあとから向かわせる。悪いがそれまでは二人でがんばってくれ」
ギルドマスターとしての立場からも苦渋の選択であるため、申し訳なさそうな顔で言うイワオに気にするなと二人は大きく頷き、部屋をあとにした。
「頼んだぞ。さて、わしもこうしてはおれんな」
仲間の背を見送ったイワオは、気持ちを引き締めて自分のできることをするために現在の戦力の再確認を行っていく。
ギルドマスタールームを出て、一階に下りホールへと戻ると二人に視線が集中した。そして、ガレオスたちを連行した受付嬢と男たちが二人を囲んだ。
「あ、あの、申し訳ありませんでした!」
彼女たちの口から出たのは謝罪の言葉であり、一斉に頭を下げていた。
「い、いえ、お気になさらないで下さい。街の様子から厳戒態勢だったのはわかっていますし、結果として早くギルドマスターさんとお会いできたのでむしろ良かったくらいです。ね、隊長」
フランに話を振られたガレオスもうんうんと頷いている。
「うむ、助かった。おかげで話もできたからな、久しぶりに昔の知人に会えてよかったぞ」
何一つ責めるようなものがない二人の言葉に受付嬢は救われた気持ちになっていた。
「それにじいさんならあれくらいであんたたちを責めることもないだろうさ。それよりも通してもらっていいか? 俺たちは行く場所ができたんでな、少しばかり急ぎたい」
これまでの旅ではゆっくりとした移動をしていたガレオスだったが、言葉にも出たようにその表情もどこか焦っているようだった。
「それでは、失礼します」
フランはそれを察して、少し空いた隙間から率先して外へと進んで行く。
「あっ、あの、本当にすいませんでした!」
「すいませんでしたー!」
彼らの再度の謝罪を背中に聞きながら二人は足早に職人ギルドをあとにした。
「隊長、どうなさったんですか?」
焦るなんて隊長らしくない、彼女はその意味を込めてガレオスに問う。
「修道騎士と魔法王国、どちらがやばいと思う?」
彼は質問に質問で返した。先ほどの話ではそれぞれを一つ一つ、別々の脅威として話していたため、二つを比較するような話はでなかった。
「そう、ですね。規模でいえば魔法王国が上回っていると思います。しかし、森があるので小規模で修道院に攻め込む程度の戦力だったら修道騎士の方々に軍配が上がるかと思われます」
フランのその答えは優等生的な回答だったが、それはガレオスを満足させるものではなかった。
「半分正解ってところだな。俺の考えでは修道騎士の実力はかなり高い、下手したら俺たち武源騎士団でも危ういかもしれない。しかし、それは戦い方によってだ。修道院の近くを戦場にして戦えば、おそらく修道騎士の圧勝だろう。だが、魔法王国が魔武具を大量投入すれば一気に形勢は傾くと思う」
魔武具とは魔法王国の上級魔法使いだけが使える武器の一種であり、使用者の魔力を増幅させて攻撃するというものだった。
「そういうことですか! あれを使えば遠距離の魔法爆撃が容易なはずです」
通常であれば、中立地帯の修道院に攻撃を加えるなどという選択肢は誰もとらない。しかし、魔法王国はガレオスたちの国を奪いとった。今まで拮抗していた国を勝ち取った今ならば手段を択ばない可能性は十分考えられた。
「急ぎましょう」
その可能性に考え付いたフランはのんびりしていられないと一気に気持ちを引き締めた。今のところこれまで修道院に何かあったという噂は聞こえてきていない。しかし、それが今後もずっとそうだとは限らないのだ。
「あぁ、急ぐぞ」
その予感を的中させないために、二人は急いで街を発っていった。
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