第22話 拘束される二人

 どうなることかと思われた街への入場時の確認だったが、ガレオスに店を紹介してくれた三人の口利きもあってすんなりと入ることができた。

「良い人たちで良かったですね」

「あぁ、全くだ。おかげですんなり入ることができた」

 フランの笑顔とガレオスの器の大きさ、その両方が彼らにその行動をとらせた原因だったが、当の本人たちは知る由もなかった。


 入場の際にどうして物々しい様子なのか衛兵たちに確認してみると、数週前に暗殺者集団が潜り込み、この街の職人たちのまとめ役を狙ったということだった。この街の警備兵、そしてまとめ役とその人物を偶然訪ねていた客によって事なきを得たが、その後は安全対策としてこのような厳重な警備体制が敷かれていた。

「あの話……」

「恐らくそうだろうな」

 これだけのやりとりだったが、二人はお互いの言いたいことを理解していた。


 二人は宿をとると早速街に情報収集に出かけることにした。

「情報を集めるとなると、商店で買い物をしつつか酒場あたりが妥当だろうなあ」

 宿にたどり着くまでにも、商店街や酒場などが目に入っていた。人が集まるところに情報が集まるのは一般的だった。

「にぎわっていましたし、話も聞けそうですね。とりあえずは……買い物から行きましょうか」

 酒場にいけば十中八九ガレオスが絡まれるのは予想できていたため、フランは買い物から先に済ませることを提案した。この街で二人が求める情報は元武源騎士団の者がどこにいるのか? これ一つだった。


「わかった。俺は荷物持ちとしてついていこう、俺が話しかけると相手が怖がってしまうからな」

「ふふっ、そうですね。私が話を聞く役を拝命しましょう」

 いつものことだったが、フランは少しおどけて返した。


 商店街で買い物をしながらフランはいろんな人に話を聞いていた。最近あった事件のことや、噂話、そして数年前にこの街に流れ着いた腕に自信のありそうな人物はいないか? 等々を中心に情報を集めていく。

「つまり、この街は職人ギルドが中心に成り立っている街で、そこのギルドマスターが襲われたってことか」

 買い物の荷物を抱えながらガレオスはフランの横で聞いていた話を改めて言葉にする。

「そうですね、そしてそのマスターは相当の腕を持っていて襲ってきた暗殺者を返り討ちにしました。その時に来ていた客人も一緒に応戦して、その方は怪我をされたそうです……話で聞いた見た目からして、おそらくそれがアダムさんなのではないかと思います」

 ふと前の街で話を聞いたアダムを思い出し、確かに彼は怪我をしていたことから話に符合する。


「かもしれんな。となると、やはりそいつが当たりということになるか。アダムが会いに行くくらいだ、どこかの隊の隊長か副長の可能性が高いな」

 ガレオスのその予想にフランも頷く。

「行ってみましょうか、聞いた話ではギルドの場所は中央区になります。宿の近くですね」

 今度はフランの提案にガレオスが頷く番だった。

「何事もなく会えるといいんだがなあ」

 周囲がどこか物々しいのは街の入り口だけでなく街全体であり、街中でも衛兵の姿がチラホラ見受けられていた。余程あの暗殺者の事件はこの街にとって大事だったのだろう。


「ひと悶着あるかもしれませんが……騎士団の方だったらきっと会えると思います」

 フランの言葉は期待を込めたものでもあったが、どこか確信を持っているようでもあった。

「ふむ、フランが言うなら大丈夫かもな」

 これまでにもフランの提案を聞いて成功したことが何度もあったため、ガレオスは疑問を持たずに彼女を信頼していた。

「ありがとうございます。それでは行きましょう」

 彼女はそう言うと足早にギルドへと向かった。ガレオスからの信頼が嬉しく、顔がにやけそうなのを見られまいとしての行動だった。



 ギルドの前に到着した二人だったが、あまりに混雑しているためどうしたものかと悩んでいた。こうしている間にも人がどんどん出入りし、立ち止まっているガレオスたちを避けるように行き来している。

「これはすごいな」

「すごい混んでいますね」

 あたりを見回せば、新しく申請に来た者、更新に来た者、苦情を言いに来た者、情報を聞きに来た者などでごった返している。

「空くまで待つか、それともとりあえず入ってみるか」

 ガレオスの問いにフランはしばし考える。

「……うーん、待っていても空かなそうですし、ギルドマスターともなると恐らく簡単に会うことはできないでしょうから試しに声だけでもかけてみましょう」


 人波にもまれながらも開放されたままになっている扉から二人は中へと入ってみる。

 入ると中は広いホールになっており、いくつものカウンターで受付の職員が慌ただしくも丁寧に対応をしている。

「とりあえず、どこかの受付で話を聞いてもらいましょう……」

 しかしどこの受付も埋まっているため、他の人たちの邪魔にならないようにと二人は壁際で待つことにした。


 行き交う人の動きを眺めながら二人で雑談をしていると、そこへ一人の受付嬢が声をかけてきた。

「あ、あのー、ずっとお待ちしてますよね。あちらのカウンターが空きましたのでどうぞ」

 周囲を見渡すと人の波は少し落ち着いてきており、彼女の言う通りカウンターも空いていた。

「あぁ、すまんな」

 受付嬢に案内されるままに二人はカウンターに向かうことになった。


「そ、それでは御用をお伺いします。見た感じ職人さんではなさそうですが……」

 受付嬢は席に着くと二人の用件を探るために改めて彼らをよく見た。どちらとも簡単な防具を身に着けており、大柄な男は背中に大剣を、小柄な女性の方は腰に片手剣を装備していたことから、職人や商人というより冒険者という風体だったため、彼女はそう口にした。

「俺たちは旅人だ。今日はここのギルドのマスターに会いたくて来た」

 ガレオスは率直に自分の用件を受付嬢に伝えた。


「マ、マスターにですか? 今ちょっとマスターは……あの、一体どういったご用件でしょうか?」

 そう尋ねる彼女の表情も口調も固くなっている。おそらく暗殺者の件もあってより警戒心が強くなっているのだろう。

「うーむ、さすがにここではちょっと言いづらい内容だ」

 ガレオスは腕を組んでそう答えるが、それが良くなかった。

「そうですか、では……」

 大人しそうな彼女は厳しい顔で左手をあげる。するとどこか周囲の空気が一変した。


「これは、一体どういうことだ?」

 気づけばガレオスとフランは周囲を筋骨隆々の男たちに囲まれていた。どう見ても話を聞いてくれるようには見えなかった。

「私たちはギルドマスターを狙う者、とでも思われたのでしょうか?」

 だがこの状況にあっても二人は落ち着いていた。

「マ、マスターに用事がある中で疑わしい方を放置するわけにはいきません!」

 あやしいと思った相手が至って冷静なことに戸惑いながらも受付嬢が大きな声でそう宣言したため、余計に二人に注目が集まっていた。


「ふむ、それでどうなるんだ?」

「こ、拘束してマスターの前に連行します!」

 必死な様子の彼女の言葉を聞いたガレオスとフランは顔を見合わせ、アイコンタクトをとる。

 そんな二人の判断は『そのほうが都合がいい』というものだった。

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