第2話 偉そうな騎士登場
警備隊の面々はその後崩れ去った家や城壁の修復の手伝いを行っていた。警備隊員は身体を鍛えているため、木材などを運ぶ役目を買って出たが、ゴールが率先的に動いており、その役目のほとんどは持ってかれていた。
「はぁ、隊長には敵わないなあ」
隊員が一つ運ぶ間に、ゴールはその十倍の量を軽々と運んでいく。
「さすが隊長だ!」
隊員たちは彼のことを称えていたが、彼に慣れていない住民たちはおっかなびっくりで遠巻きに見るだけだった。それは入り口の近くには元々家が少なかったが人口増加によって住宅が増えてきたため、ゴールのことを知らない新しい住民が多く住む場所ということが原因だろう。
ゴールが壊れた石壁を運んでいると、馬に乗った騎士が数人やってくる。
「おい、一体何があった! 詳しい報告をよこせ!」
その中でも最も偉そうな態度の男が、警備隊員に向かって怒鳴り散らす。あまりの剣幕に隊員だけでなく、住民たちもぽかーんとして男を見ていた。
神経質そうで細身の目つきの鋭い男だったが、それでも騎士であるため、その身は鍛えられている様子がうかがえる。
「ちっ、おい! お前らの責任者はどこにいる!」
男は反応のない隊員たちに苛立った声をあげた。
「呼んだか?」
「うわっ!」
馬に乗っている騎士よりも背が高いゴールがぬっと目の前に姿を現したため、男は思わず仰け反ってしまった。
「お、お前がここの責任者か?」
男は何とか冷静さを保ちながらゴールへと尋ねるが、その額には汗が浮かんでいる。
「おう、俺が警備隊長のゴールだ。モンスターは俺たちで片付けた。今はその後処理をやっているところだ」
「わ、私は領主様の騎士団所属の小隊長カルンだ。領主様の命で何があったか調査に来た。早急に今回のモンスターの襲来の顛末を書類にまとめて提出せよ!」
カルンはそれが当然であるとばかりに、ゴールへと命令した。
しかし命令されたゴールはしばし考え込んでいる。その様子を不思議に思った男が再度声をかけた。
「ん? どうした、早く戻って書類の作成にとりかかれ」
「あー、やっぱりそういうことを言ってるのか。悪いが無理だ、今はここの片づけをしなければ住民が困ってしまうからな」
ゴールはそれだけ言うと作業に戻っていく。それを見ている隊員や住民は気が気ではなかったが、騎士の顔をチラチラみながらもそのまま作業に戻ったゴールに追随していく。
「なっ! おい、待て! 私の命令が聞けないというのか!」
騎士は馬から下りるとゴールへと詰め寄る。しかし、近づくことでその身長差は明らかになり、男はゴールの顔を見上げる形となった。
「いや、命令がどうとかではなく、今の最優先事項はここの片付けだという事実だけだ。それに警備隊と騎士団では基本的には命令系統が違うはずだが?」
ゴールは片づけを再開しながらも平然と男の質問に答える。
「作業をやめて話を聞け! 命令系統は確かに異なるが、街の有事だ。問題共有の義務はあるはずだ!」
しかしそれが気に入らなかった男は顔を赤くしてゴールへと再度詰め寄った。
何度も言われるためゴールは作業を止めざるを得ず、頭を掻きながら男へと向き直った。
「うーむ、困ったやつだなあ……だったらこうしよう。片付けの作業を手伝ってくれ、そうすれば俺が書類の整理に戻れる時間も早まるはずだ」
ゴールは名案だと、強引に男の背中を押して作業に加わらせる。
「な、なぜ騎士である私がそのようなことせねばならぬのだ!」
力強いそれに抵抗できずに勝手に足が動いていくが、口では抵抗の意思を示す。
「おう、話は後だ。ほれそっちを持ってくれ。持てるか?」
ゴールの言葉を挑戦と取った男は、渡された木材を持ち上げる。
「む、ぬおお、これはなかなか。だが、これくらいであれば問題ない!」
騎士の男は口は悪かったが、普段から鍛錬を行っていたおかげでゴールに渡された木材を難なく所定の位置へと運んでいく。
「うむうむ、おい、そっちの馬に乗ってるあんたたちも手伝ってくれ!」
その動きを満足そうに見ているゴールは人が多いに越したことはないと馬に乗ったままの騎士の部下たちにも声をかけた。
小隊長が手伝いを始めてしまったので、部下の男たちも渋々といった様子でだが片付けに参加することとなる。
その後片付けはゴールの獅子奮迅の活躍に加え、騎士団による手伝いも加わったため、当初の予定よりも早く終えることとなった。
「ありがとう、あんたたちのおかげでだいぶ早く終わったぞ」
ゴールに礼を言われた騎士たちは疲労からその場にぐったりと座り込み、呼吸を整えていた。
「はぁはぁ、一体お前の体力は何なんだ。化け物すぎるだろう」
騎士の男は何とか言葉を振り絞るが、その場から立つことはできなかった。
「隊長、ご要望のものが用意できました」
「おう、ご苦労さん」
そんな騎士たちを満足げに頷きながら見ていたゴールのところへ副長が封筒を手渡しにやってきた。
「ほれ、これがあんたの言ってた今回の事件に関する書面だ。あんたたちが手伝ってくれたおかげで副長に今回のことをまとめてもらう時間ができた。ありがとうな!」
にかっと笑顔を見せるゴールからその封筒を受け取った男は自分がここに来たのは何のためだったのかをようやく思い出す。
「あ、あぁ、確かに受け取った」
男は既に書類がそろっていることに驚きながらも、受け取った封筒を懐にしまい辺りを見渡した。
「馬だったら、今連れてくるように言ったところだ。少し待ってくれ」
その動きから何を探しているのかを察したゴールが先んじて回答した。
「そ、そうか」
しばらくすると、ゴールの部下たちが騎士たちの馬を連れてくる。
「すいません、お待たせしました。厩舎の者がブラッシングをしていたのでそれを待っていました」
申し訳なさそうに詫びてくるのを横目に馬を見ると以前に増して毛並は艶やかになっていた。
「いや、気にしないでくれ。ありがとう」
やってきた頃には出てこなかったであろう言葉を騎士の男は口にした。その反応に驚く者もいたが、それに一番驚いたのは騎士自身のほうであった。
「おい、お前ら並べ!」
そんな彼をよそにゴールが周囲に声をかけると、警備隊員はゴールの横に列を作る。
「な、なんだ?」
騎士たちは狼狽するが、それでも構わずに警備隊は綺麗な隊列を作った。
「ありがとうございました!!」
「ありがとうございました!!」
ゴールの言葉に隊員たちは続き、騎士たちへと感謝の言葉を述べる。
「あ、いや、その。と、当然のことをしたまでだ」
言葉に詰まりながらも、彼は困惑の表情でそう返した。
また、住民たちからも次々と騎士たちへ労いの声がかけられる。
「騎士さんたちありがとな! 来た時は横柄で嫌なやつかと思ったけど、手伝ってくれて助かったよ!」
「騎士様、ありがとうございますじゃ」
「お兄さんたち、ありがとう」
騎士たちは面を食らうが、全員まんざらでもない様子だった。
「あー、いや気にするな。私たち騎士団も警備隊同様この街のための存在だ。いつもというわけにはいかんが、たまにはこういった手伝いも必要であろう」
偉そうだった男からそんな言葉が出てきたことに、同行している部下達は目を丸くしている。
「本来の仕事以外のことを手伝わせてすまなかったな。本当に助かった」
ゴールからもそう言われ、この騎士の男は目の前の大男も悪いやつではないようだなと考えを改めていた。
「いや、先ほども言ったが気にしなくて構わない。本来の任務も果たせたことだしな。さて、我々は戻らせてもらおう」
そう言うと騎士たちは馬に跨り、すっきりとした表情で領主の館へと戻って行った。
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