豪傑の元騎士隊長~武源の力で敵を討つ!~

かたなかじ

第1話 警備隊長ゴール

警備隊詰所


「隊長、そろそろ時間ですがどうします?」

 警備隊長のゴールに声をかけたのは、同警備隊副長のフランだった。

 肩で切りそろえられた茶色の髪に彼女は胸当て、脛あて、小手を装備する程度で軽装だったが、動きやすさを重視する戦闘スタイルであるため、通常はこの装備を身に着けている。身長は女性の平均よりやや低い程度である。

 彼女は以前の職場でもゴールの部下だったため、彼の返事を予想できていたが確認のために質問をした。


「おう、もうそんな時間か。ありがとうな、もちろん巡回に向かうぞ」

 返事をしながら壁に立てかけてある大剣を彼は背負った。彼以外が持てばたちまちよろけてしまうほどの重量、何よりその大きさは誰が見ても目を見張るものであった。

 フランの隣に置けば彼女の身長を上回るほどの大剣をゴールは軽々と運んでいる。

「いつみてもその大剣を持つ隊長の姿は迫力がありますね」

 ただでさえ背が高く、ガッシリとした体形のゴールだったが、背中に巨大な大剣を背負うことでその存在感は増していた。

「今日の同行メンバーは私だけです。先の巡回メンバーがまだ戻っていないので、他の方たちには念のため残ってもらうことにしました」

 警備隊の詰め所を空にするわけにはいかず、かといって巡回に行かないわけにもいかないがゆえの判断であった。


 フランの言葉にゴールはその太い眉をひそめた。

「対応はそれで構わんが……まだだったのか。通常巡回にしては遅いな、何もなければいいが」

 ぐっと固くなった表情のゴールは仲間を案じ、やや早足になりながら詰所を出ることにする。

「皆さんなら大丈夫だとは思いますが、とにかく私たちも行ってみましょう」

 警備隊の仲間のことを信頼しているが、不安は拭いきれないため、彼女も小走りでゴールの後を追いかける。


「おう、すまん。少し速かったな」

 ゴールは自分の一歩がフランの一歩とで大きく差があることを思い出して、歩く速度を緩めた。

「いえ、気にしないで下さい。逸る気持ちはわかりますし、私のせいで手遅れなんてことにはなりたくないです。速度を戻してもらって大丈夫です、ちゃんとついていきますから」

「わかった」

 彼女の性格を思い出し、強がりで言っているわけではなく、現状から考えた結論であると判断したゴールは速度を戻した。


 足早に周囲を警戒しながら巡回を続けるが、街は平和そのものだった。笑顔あふれる街人たちに彼らの気持ちも少し落ち着きを取り戻していく。

「隊長さん、これ持っていってくんな」

「うちのも食べてくれよ!」

「これ、どうぞ」

 商店街を通ると店員たちがゴールへと食べ物を次々に渡していく。この商店街の店主の年齢は高く、ゴールは高齢者からの人気が高かった。一方で店主の息子や娘などは、ゴールの見た目に怯えて視線をそらしている。

「うむ、ありがとうな」

 ゴールはこの街に赴任した当初は全て断っていたが、何度も何度も言われるためせっかくの厚意だからと今では全て受け取ることにしていた。ゴールが受け取ったものは全て、フランが見た目以上に大量の物を収納できるマジックバッグへとしまっていく。


「ふむ、いつも通りだな」

 ここまでには何も変化を感じられなかった。

「そうですね、どこか寄り道でもしているんでしょうか? 話好きの人につかまっていたり」

 フランは自分にもそういった経験があったため、前巡回の隊員たちも同様なのかとそう言ったが、ゴールの表情が険しいものへと変わる。

「隊長……どうされました?」

「何かおかしいぞ、入り口のほうだ」

 険しい表情のままのゴールたちが街の入り口に向かうにつれて周囲の様子が変わってくる。いつもとは違う喧騒に包まれ、逃げ惑う者や野次馬根性で何がおこっているのかと騒動のもとへ向かうものなどがいた。

「フラン、行くぞ!」

 ゴールは返事を待たずに駆け足で街の入り口へと向かった。フランも置いていかれまいと全力で後を追いかける。


 入り口では魔物が攻め込んできており、その侵入を警備隊の隊員たちが何とか防ごうとしていた。だが門は壊され、魔物たちの侵入を許してしまっていた。

「お前たち、大丈夫か!」

 ゴールが隊員たちへと大声で呼びかける。彼のひと際大きな声は戦闘中の隊員全員の耳に届く。

「おい、隊長が来てくれたぞ! もう大丈夫だ!」

「もうひとふん張り気合をいれろ!!」

 侵入を許してしまい駄目かもしれない、そう心によぎっていた隊員たちだったが、突如現れたゴールの存在に勝利を確信する。


「うおおお!!」

 ゴールは気合をいれて声を上げながら背中の大剣を抜くと、正面にいる一番大きな魔物へと向かっていく。それは巨大なゴーレムだった。本来であれば、ゴーレムは錬金術師などが作成し、街の防衛にあたらせることが多い。こんな風に野良の魔物と化したゴーレムは珍しかった。

「色々と気になることはあるが、まずはこいつを片付けるぞ!」

 ゴールの大剣による渾身の一撃がゴーレムの腕を肩から斬りおとしていく。大剣をまるで片手剣のように扱い、ゴーレムを一刀両断にしていくその背中は隊員たちに勇気を与えていく。


「隊長だけにいいとこを持っていかせるな!」

「おぉ!」

 隊員の士気も上がり、魔物たちの討伐が進んでいく。

「みなさん、住民の避難はこちらでやっておきます。思う存分戦ってください」

 フランは先の巡回グループの女性隊員とともにいまだ周辺に残る住民達の避難誘導や、野次馬たちに下がるよう指示をだしていた。


 ゴールはあっという間にゴーレムをバラバラにし、核を大剣で破壊する。

「大物は倒したぞ、次はあっちだな!」

 その声に隊員たちは歓喜の声をあげる。

「さすが隊長だ!」

 そう声をかけた隊員も目の前の魔物の討伐を終えて、剣を鞘へと納めていた。

 ゴールが来るまでは押されっぱなしだったが、彼の登場によって奮起した隊員たちの活躍。何よりゴールの獅子奮迅の活躍によって死者ゼロで警備隊の圧勝という結果に終わった。


「おう、無事か」

「はい、全員軽傷ですみました。ありがとうございます」

 隊員たちを見渡すと、その返事の通り大きな怪我をしたものはいなかった。

「気にするな、当然のことをしただけだ」

 ゴールが彼らの礼の言葉に返事を返していると、どこからか悲鳴まじりの声が聞こえてくる。

「だ、だれかー!!」

 声の聞こえる方向へと視線を向けると、逃げ遅れた住人がまだ取り残されていた。

 魔物がやってきてから警備隊が辿り着くまでの間、しばらく魔物が暴れていた影響で入り口近くの家が壊されており、更に火の手も上がってきている。


「どこだ! どこから声がする?」

 ゴールはそれにいち早く反応し、倒壊している家に近づいて近くにいた隊員へと声をかけた。

「ど、どうやらこの家の中みたいです。襲撃にあった時に家の中に残っていたため、閉じ込められたのかと……」

 隊員もそのことはわかっていたが、どう対処すればいいかわからずに戸惑っている。

「わかった!」

 ゴールは着ている鎧を外すと、近くにあったバケツの水をかぶり家の中へと入っていった。

「た、隊長!!」

 隊員が声をあげた時には、既にゴールの姿は炎と煙の中に消えていた。


「どこだ! 声を出してくれ!!」

「こ、こっちです。助けて!!」

 声は二階から聞こえてきた。ゴールは煙を吸わないように口元を濡れた布で覆いながら、二階へと走りあがっていく。

「どっちだ? こっちか!」

「ごほごほ」

 ゴールは二階にあがると、咳き込む声を聴き取り右手の部屋へと入って行く。

「いた! おい、大丈夫か? 今助けてやるからな」

 声の主の女性は、足の上に瓦礫が乗っていたため身動きがとれず、煙も吸い込んでしまった様子で意識も薄れてきていた。


 女性の力ではもちろん、一般的な男性でも一人では持ち上げられないような瓦礫をゴールはひょいひょいと軽々と取り払う。

「これを口にあてていろ」

 ゴールは自分が口にしていたのとは別の布を女性に渡すと、腕に抱えた。ゴールの力強い言葉に女性はぎゅっと目をつむるとその身をゴールに預け、口元を塞ぐことだけに集中した。

 その間も炎は燃え広がり、建物も徐々に崩れていく。

「少し我慢してろよ」

 ゴールは自らに降り注ぐ木材などには構わず、女性を守ることだけを考えて炎の中を走りぬけていく。


「あそこだな」

 扉も崩れていたが、そこが入り口だったことを覚えいた。女性を包み込むように抱いたまま彼は扉を体当たりで破壊し、外へと飛び出した。

「た、隊長!! 大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、この女性を頼む!」

 隊員はゴールから女性を受け取ると、家から離れた場所に座らせて他の隊員が用意した毛布を肩からかけていく。

 火の手が回り、消火が手遅れだと思えるほど家が崩れていくのを確認すると、ゴールは女性のもとへと近づいていく。

「大丈夫か?」

 女性は顔を上げて、おもわず目を見開いた。

「ひいぃ!」

 その口から漏れ出たのは悲鳴だった。彼女は目の前のゴールの容姿に驚いて、恐怖に体を震わせて近くの隊員にすがり付いていた。ただでさえ大柄で怖がられる容姿なのに加えて、煤で顔が真っ黒になっていたためであった。


「うむ、元気なようでよかった」

 ゴールは彼女の反応は気にもとめず、無事を確認する周囲の確認に向かった。

「はぁ、あんなにすごい人なのに、見た目だけで損してるよなあ」

 隊員はゴールの不遇っぷりに女性をなだめながら同情の声をあげていた。

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