第24話

【ジジイの見本その2】


それでは、ジジイの見本その2である。読者のみなさんは、自分ならどうカウンセリングを行うのか、想像しながら読んでもらいたい。





「もしもし?」

「おかえりなさい」

「あ、えーと、電話、まぁ、その、かけなくても良かったんやけど、一応、まあ、かけてみました。今も、ちょっと切ろうかなと思ってますけどね。はっはっはっ」




↑プライド高いやつ(≧∇≦)

でも、プライドを傷つけないように接するのがポイント(^_^)




「わあ、そんなに迷ってたのに、電話をかけてくれて、気まぐれとしても嬉しいです。何かの縁かもです〜」




↑下の立場に立ってあげる(^_^)




「いや、でも、すぐ切るけどね。はっはっは。実はさー、まあ、俺、世の中で成功するための方法を発見したんやけどさ、その発見のすごさをわかる奴が周りにおらんのよ。で、まあ、こういう相談を受ける窓口の人も、やっぱりアホなんかなあとか、ちょっと試す感じではあるんよね。いやいや、気を悪くしたらごめんやで」


↑救う価値なし。でも救うのが心理カウンセラーなのさ(^_^)




「そ、その大発見、聞かせてほしいです!世の中で成功するための大発見?」

「そうやね。聞くけどさ、君は、今までの人生でパンツを脱いだ回数と履いた回数、どちらが多いと思う?」

「パンツを脱いだ回数と履いた回数?えー、脱ぐと履くでワンセットやから、同じじゃないんですか?」

「違うがな!はっはっは!君はノーパンで電話しとんかいな!アホやな!はっはっはっ!ええか?生まれた時は、裸やわな。そこから、履くと脱ぐがワンセットや。で、今はお前、履いてる状態やがな。てことは、履いた回数のほうが一回だけ多いねん!」





↑なにゆーてんねん、こいつ(^_^)




「そ!そうですね!言われてみれば!わあ、友達にめっちゃ言いたくなるやつっすねー、これ!」





↑プライドを傷つけない(^_^)




「それが、なにを意味するか、わかるか?ええか、俺みたいな芸人の世界はな、売れるやつなんて、ほんの一握りなんや。俺みたいに才能があって、天才でも、埋れてしまうわけよ」




↑また芸人か(≧∇≦)。きしょい(≧∇≦)





「なるほど、そうですよね」

「そうや。で、考えたわけや。パンツを脱いでる回数と履いてる回数が一個ズレてるのは、お客さんに対して失礼やと」

「失礼?」

「そうや。パンツを脱いでる回数と履いてる回数が全く同じ芸人が舞台にあがってるほうが、お客さんは、やっぱり、気持ちええと思うんや。一個ズレてるより」

「イヤイヤハッハッハッ」





↑コメントしようのない時に使うやつ(^_^)




「そこで、売れるために考えたんや。同じにさせる方法をな!パンツを脱いでる回数と履いてる回数を!」




わざわざ倒置法を使ってるあたり、かなり自信を持っているポイント(^_^)




「ご、ごくり」




↑もう、口で、ごくりって言ってあげる(^_^)



「パンツを、腰のあたりで、布を巻きつけて、その状態で、布を切ったり、縫合したり、して、腰のあたりで作ってもらうねん。そしたら、“履く”という行動を一切せずに、パンツを履いてる状態が?」

「誕生するという、ことですね。ご、ごくり」



↑語尾をひきとってあげる(^_^)




「そうやがな!腰のあたりでいきなりパンツを作ってもらったら、パンツを脱いでる回数と履いてる回数が同じ芸人の誕生や!」





さて、読者のみなさんは、こいつに、自分の間違いをどうやって気づかせるだろう?




必ず想像しながら読んでほしい。




「パンツを脱いできた回数と履いてきた回数が同じ芸人が誕生したら、有利になるんですか?」

「当たり前やがな!パンツを脱いできた回数と履いてきた回数が一個ズレてる芸人なんて、山ほどおるのに、その中で、売れる人間なんて、一握りや!ところが、パンツを脱いできた回数と履いてきた回数が同じ芸人は?」

「あ、あなた、一人だけ・・。ご、ごくり」




↑あくまでプライドを傷つけない(^_^)



「そうや!だから、売れる!そうやから、俺は、嫁に、言うたんや!俺らの夫婦漫才が、コンビとして、売れるために、俺の腰に布を巻きつけて、その状態でパンツを作ってくれって!そしたらな!どうなったと思う?」

「ど、どうなったんですか?」

「嫌がりよるねん!」




↑当たり前やろ!(*`へ´*)




「そ、そうなんですね」

「そうや!それさえできたら売れるのに!『わたしのほうがネタ書いてる』だの、『砂を触った手でおっぱいを触ってくるな』だの、言ってくるねん!」



↑さっきのやつの旦那かーい





「えーと、ちょっと質問いいですか?あの、僕、昔、心理カウンセラーとして、一流になろうと、右目を手でおさえて、左目だけで、まばたきをしまくって、“左目のまばたきの回数が右目の二倍ぐらいある心理カウンセラー”という、今までにないカテゴリーを作ったつもりやったんですよ。でも、失敗しちゃったんです。なんでなんですかねぇ?」




↑下手に出ながら、聞く、ソクラテスのようなテクニック(^_^)




「そんなもん、心理カウンセラーと関係ないもん。アホちゃう」

「関係ないんですかねえ」

「そらそうやろ。まばたきの回数が左目のほうが圧倒的に多い心理カウンセラーなら、信頼できる、とか、ないもん!意味のない努力をしとるだけやがな」

「なるほど!そうですね!いやあ、スッキリしました!それにくらべて、芸人さんは、やっぱりパンツを脱いできた回数と履いてきた回数、同じ人のほうが、説得力ありますもんね」

「そうやがな!回数が同じほうがええがな。芸人たるもの!」

「そうですよね!パンツを履いてきた回数と脱いできた回数が同じ芸人が出てきたら、もう舞台に登場してきただけで、オーラが違うから、わかりますもんね!」

「う、うん」

「パンツを履いてきた回数と脱いできた回数が同じという意味では、我々の祖先のサルは、パンツを履いてきた回数も脱いできた回数も0で、同じやから、サルのほうが面白いですもんね!動物園でも人気者ですし!」

「う、うん、ま、まあ」





↑ひいてきてる(^_^)



「うおーっ!パンツを脱いできた回数と履いてきた回数が同じになって、おばあちゃんに、生きてるうちに、報告したかったーっ!生きてるうちにーっ!」

「や、め、ろ」

「生きてるうちにーっ!今は、お墓に報告にいくしかない!その前に、パンツを腰のあたりでいきなり作ってもらわないと!そのためには、まだ生きてるほうのおばあちゃんに頼もう!裁縫が得意やし!うおーっ!おばあちゃんーっ!待ってろよーっ!おばあちゃんーっ!もう一人のほうのおばあちゃんに、パンツの回数を同じにしてもらって、そこから、報告に墓参りするからなーっ!」






その時だった。




「やめろーっ!気が狂いそうやーっ!そ、そんなことして、なんになる!パンツを脱いできた回数と履いてきた回数?一致させる?させんでええわーっ!そんなことして、なんになる!売れてないのは、おもろくないからや!それだけの話や!毎日ネタを書く!お客さんの反応をみて、あかんかったところを相方と相談しながら、なおす!それだけやーっ!うっ、うっ、うっ」





男はこの後、一時間泣き続けた。





そして、こう言った。




「あ、ありがとう」





この一言で、カウンセラーは、救われるのさ。


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