第8話

【ジジイの課題その3】


まさおは、悩んでいた。



今までの課題は、全部、わけがわからないものばかりだった。



うんこを食わせるテレアポ?




マトリョーシカみたいなダッチワイフ?



売れるわけがない。怒鳴られたり、切られたり、自分がやってることは単なるイタズラ電話じゃないのか!



そんな想いを中断したのは、ジジイが口を開いたからだ。




「さあ、次の課題や!次は、比較的イージーなやつ、いこか!そろそろ、お前も、自分の実力、どれぐらい上がってるか知りたいやろ!」



まさおはワクワクしてきた。



なんだと?



イージーなやつ?




ジジイの課題3




“ソファー型ダッチワイフを売れ”






悪夢だ。




ソファー型ダッチワイフ?



なにゆうとんねん、こいつ。



「マトリョーシカみたいなダッチワイフは、すごく売りにくかったと思う。でも、今回は、普通のダッチワイフの問題点をクリアしてるわけやから、普通のダッチワイフより売りやすいねん。お前、ダッチワイフ持ってるか?」

「持ってないです」

「なんでや?」

「いや、だって、嫁と子供おるから」

「そこやがな!このソファー型ダッチワイフは、普段はソファーや!その上で家族団らんできるんや!そして、夜中、家族が寝静まったところで、ソファーから“オンナ”になるんや!」

「それって、バレないんですか?」

「ばれへんがな!ソファーの上で眠ってしまってるみたいな形で、自分の大切な部分をソファーの穴に差し込めるようになってるんや」

「その、ソファーの穴は、普段はわからないとこについてるんですか?」

「いや、空いとる。せやけど、そこは、普段はボールペンとか筆記用具を入れられる感じになってるから大丈夫や」

「普段、筆記用具入れてるとこに、夜中、筆記用具いったん出してから、やるんですか?めんどくさいし、イカくさくないですか?」

「は?なにゆうとんねん、筆記用具いったん全部だして、終わったあとは、ソファーごと丸洗いできるし、大丈夫や」

「ソファーごと丸洗い?」

「はっはっはっ。冗談ながな。ソファーごと丸洗いなんて商品、売れるわけないがな。あっはっはっはっ。ちょ、つ、ツボに入るわ、お前。あっはっはっはっ」



ジジイは息が苦しいほど笑いだした。



冗談って言うけど、今までの道のりを思い起こすと、冗談みたいな道しかなかったような気がするのだ。


「あーあ、おもろ。ソファーの穴だけ、カポっと外せて、それだけ洗えるようになってるよ」

「あ、あと、ソファーみたいなダッチワイフなんですよね?肝心のダッチワイフ的な顔とか、姿とかじゃないと興奮しないと思うんですけど」

「お前さあ、そこまでアホやとはな。情けない」


ジジイは情けなくて仕方ないことを眉毛を八の字にすることで表現した。



「百聞は一見に如かずや。これがその商品や」


ジジイが大きな赤い布をとると、まさおの前にダッチワイフみたいなソファーがあらわれた。



確かに文房具が入っている穴がある。ここに入れて、気持ちいいのかなあ。文房具が入っている穴としては不自然なぐらい小さな穴ではある。



「そのソファーの上に寝そべってみろ」



言われるがまんまにソファーに寝そべってみると、ちょうど顔あたりのところに妙なラクガキがあった。



ハダカの女のラクガキで、マンガのセリフのような吹き出しがあり、その女は「うっふーん」と言っている。




まさか。これをオカズにするのか?





まさおは、気がつけば泣いていた。




「こ、こんなもん、売れるわけないやろ!アホか!うわあーん、うわあーん!」



ジジイは笑いだした。


「冗談やがな!あっはっはっはっ」




だから、冗談かどうかわからんねん!クソジジイ!




ジジイは、笑い終えると、一本のDVDを持ってきた。



「これが、このソファー型ダッチワイフに付属品としてついてるやつや」



「俺が、このソファー型ダッチワイフの使い方、実際やってみせたるわ」


そう言うとジジイは、ソファーに座り、付属品のDVDを入れると、リモコンで再生をした。



画面には、ショートカットで黒髪の女の子が現れた。



「ここよ。わたしはここ。わたしに気づいて」



女の子の声を聴きながら画面を注視するジジイに、女の子は続けた。



「もう!画面じゃないわ!気づいて!ここよ!あなたが座っているのが、わ♡た♡し♡」

ジジイはキョロキョロしてから、わざとらしくのけぞった。


「ひゃ!ひゃあっ!そ、ソファーなのかい?」


「ソファーじゃないわ♡わたしは、桃尻きららよ♡わたしのあそこにぶちこんで!」


悪夢のような商品だ。まさおは、金をもらうから、もらってくれと言われても、いらないと思った。




「わたしのあそこがわからない場合は説明書の13ページを見て!遅れたけど、このたびは、本製品をお買い上げいただき、誠にありがとうございます」




なんという興ざめな商品なんだ!



こんなものをこれから売りつけるのか!帰りたい!でも、帰るなんて言ったら、また殴られる!



ジジイの小芝居は続いた。



「どこかなあ。どこかなあ」



「早くぅ。入れてぇ」



ジジイがその穴に、汚いジジイ自身をセッティングすると、画面の女の子があえぎだした。




最初はかわいいと思ったのに、だんだんとブスに見えてきた。くだらない演出のせいであることは言うまでもない。




ここからの詳細は割愛させてもらう。



とにかくジジイの腰の動きにあわせて画面の汚い女があえぐという商品であった。





「はあ、はあ、はあ。気持ちよかった。おい、これ、お前、洗っとけ」



まさおは、必ずこのジジイよりテレアポの技術がうまくなったら、殺すことを心で誓ったのであった。



まさおが、汚いものを手洗いしていると、遠くのほうでジジイの声がした。



「ちなみに、“嫁が来た!”と叫ぶと、画面は自動的に“ダイハード”に変わるようになってるから!」



まさおは水の音で聞こえないフリをした。




ダイハードを一体なんやと思ってるねん。


















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