第2話
【相手に選ばせていくこと】
ジジイに通された部屋は、たくさんのパソコンがあり、どうやらそのパソコンの通信を通して、電話をかけていく、いわゆるコールセンターのようだった。
ただ、普通のコールセンターと違うのは、ジジイとまさお以外、誰もいないということだった。
「この中から、好きなパソコンを自分で選べ!そこから、特訓開始や!」
ジジイの言葉に従い、まさおは、ひとつの席、窓側の部屋の後ろのほうに座った。
「選べって言ったんや!座れとは言ってないやろ!アホか!親もアホやろ!でも、俺は親の悪口を言ってるわけやない!親がアホなんは、その親の親もアホやからや!」
ジジイのあまりの言葉にまさおは、一瞬言葉を失った。
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ!なんでそこまで言われなあかんのですか!選べって言ったら、普通座ると思うでしょう?」
「お前、ほんなら、好きな服選んでええぞって言われたら、その服の上に座るんかい!レストランで好きなもん選びなさいって言われたら、頼んだオムライスの上に座るんかい!」
「服の時は着るし、オムライスの場合は、食うわ!」
「それが大事なポイントなんじゃい!」
まさおは、一瞬ひるんだ。
「ど、どういうことですか?」
「テレアポのコツはな、色々あるんやけどな、大きく二つある。この二つをまずは、徹底的に学べ!」
ジジイの示した二つは以下のものである。
1 相手に選ばせていく
2 小さなイエスを積み重ねる
「テレアポのポイントはな、論点をいかにずらすかやねん。思い出せ!俺に飛び降りをとめられた時のことを!死ぬか、生きるか?という論点やと、俺は負けるわけや。死ぬつもりのやつからしたら。だから、そこで争っても仕方ないんや。」
「ど、どういうことですか?」
「ええか、生きるか死ぬか選べっていう勝負をしかけると、こちらが負けるわけや。そらそうやろ。自殺しようとしとるわけやから。ところが、とめるな!ってお前が言ったから、そこを論点にしたんや。」
ジジイの話は続いた。
とめられると勝手に思ってることが恥ずかしいか、それとも恥ずかしくないか?
そこを論点にしとるわけや。
そのあともそうや。とめられると思い込んでた発言が恥ずかしいから死ぬか、違う理由で死ぬか、って論点にもっていってるわけや。
最後に、また筋違いの論点に持っていく。
とめられると思い込んでたことが死ぬほど恥ずかしいことか、それとも死ぬほどのことじゃないかどうか?
そこでお前が自ら死ぬほどのことじゃないと発言したやろ?
そこで短く、「ほな生きろ」
これで終わりや。
ジジイの話は明快だった。なるほど。
「催眠術かける時にな、催眠術かかるか、かからないかって論点にしたら、かからへんねん。“かかってたまるか、絶対俺はかからへん”って思ってる奴にその論点で勝てるわけないやろ?」
「はい。どうするんですか?」
「今からあなたに催眠術をかけます。立ったままかけるのと、椅子に座った状態でかけるのとどちらが良いですか?こんな風に聞くわけや。」
ジジイの話はまたしても明快だった。
そう聞かれると、大体の人間が椅子を選ぶ。“立ったままかかったら危ないんじゃないか。倒れたりしないのかな。”などと考えるからだ。
この時に、“催眠術にかかるとしたら”という前提のもとで、立つか座るかという論点を選ばされてるということが大切なんや。そして、かかっている自分を想像してしもてる。
まあ、他のテクニックもたくさんあるけど、こういうもんの繰り返しで催眠術をかけるんや。
チキンラーメンのCMであったやろ。
あなたは、たまごを先乗せ派?それとも、後乗せ派?とか聞いてくるやつ。
買う、買わないを論点にしてないのよ。
買った前提、食べる前提のもとで、たまごを先に載せるか、あとで載せるかってのを考えさせとるんや。
こうやって、人を導いていくんよ。これが、人を思い通りに誘導するコツや。
まさおは、口をはさんだ。
「もうひとつの、小さなイエスを積み重ねるってやつはなんですか?」
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