第11話 山田さんは旅をする
俺とシイは旅の準備を始めた。
シイは修学旅行みたいだと言ってなんだか嬉しそうだった。
そんな喜んでいる彼女の姿を見て俺もおもわず嬉しくなる。
そして俺はiPhoneで行き先を決めると電話で宿泊先の旅館の予約も済ませた。
シイが目的地を聞いてきたので、俺はそれは秘密だと答えた。そのほうが旅っぽいと思ったのだ。
すると「なるほど、ミステリーツアーということですか」と納得した様子だった。
家を出発する頃には時刻はいつの間にか12時をまわっていた。
外は昨日の悪天候とは打って変わって、雲ひとつない晴天だった。
旅には少し暑すぎるくらいだ。
それでも雨が降るよりは全然良かったのだが。
俺たちは三十分ほど地下鉄に乗ったあと、北へ向かう特急に乗り換えた。
朝から何も食べていなかったので、特急の車内で駅弁を食べることにした。
車内ではシイは窓際に、俺はその隣に座っていた。
平日の昼ということもあってか、車内にはあまり人がおらず落ち着いてご飯が食べられそうだった。
「これとってもおいしいですよ」
隣に座っていたシイが海老天の入ったおにぎり(天むすと言うらしい)を食べながら舌鼓を打っていた。
シイが食べているのは天むす弁当と言うもので、天むすが五つ入っている弁当だった。
俺はうなぎの入ったひつまぶし弁当を食べていた。
「へぇ、俺こっちに三年以上住んでるけど食べたことないんだよな」
実際に見たのも初めてだった。
「山田さん、食べて見ますか?」
「うーん、じゃあ一つ頂こうかな」
初めは遠慮しようとしたのだがシイが嬉しそうにおにぎりを差し出してくるので食べることにした。
「確かにこれはうまいな」
それは予想しているよりも遥かに美味しかったので率直な感想が口から出た。
「はい、作り方が知りたくなります」と言うとシイはなにやら真面目に考えていた。
「こういうのは簡単そうで難しいんだろうな」俺は特急の天井を見上げながら呟いた。
「だと思います」
食べ終わった後、シイは窓から変わりゆく景色を楽しそうに眺めていた。
「山田さん、あの人写真撮ってますよ」とか「ほら山田さん、ここ自然がいっぱいですよ」と逐一俺に教えてくれていた。
話すことは幾らでもあったのだが、俺はなんとなく短い相槌を打っていた。
到着するまでの三時間はあっという間だった。
「ほら着いたよ」
「金沢ですか。初めてきました」
あまり遠くに行きすぎるのもどうかと思った俺はちょうど良さそうな距離の金沢を目的地にした。
「ならよかった、俺も初めてきたんだ」
と言って席を立ち上がると俺はシイに手を差し出す。
「ほら、はぐれるといけないからさ」
「じゃあ、失礼しますね」
そう言ってシイは髪をかき分けながら俺の手を握った。
山田さんと不思議ちゃん きふゆ @kifuyu
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