第7話 山田さんはインドア派

 三日目


 少し強まった雨音で眼を覚ました。

 思えば最近は雨が全く降っていなかった気がする。

 まぁ俺は農家でもないし、別に雨に感謝したりはしないのだが。

 シイは相変わらず寝袋で寝ていた。

 ベッドで寝ることを勧めたのだが、寝袋がいいという。

 俺は外が雨だから今日は出掛けることも無いだろうと思ったので、シイを起こさずにそのまま寝かせておいた。

 俺は純粋なコーヒーを飲みながら、テレビの音量を消して、流れるニュースの映像だけを見ていた。

 今のテレビって音を消してもある程度は内容が頭に入ってくるものだから驚いた。

 ニュース以外はどうかよく分からないけど。


 九時ごろようやくシイがもぞもぞと動き始めた。

「……山田さん……おはようございます」

「おはよう、よく眠れたか?」

「はいおかげさまで、テレビ見てたんですね」

「ああ、ニュースを見てた」

 俺はテレビの音量を元に戻す。

「私、ニュースは少し苦手です。嫌な事件ばっかり起きてますから」

「まぁニュースなんてそんなもんだろ。とりあえず顔でも洗ってきたらどうだ?」

 シイは「はい」と頷いて洗面所に向かった。

 俺はその間にチャンネルを変えたが、どのチャンネルも大体ニュースしかやっていなかったのでテレビを消した。

「雨、結構降ってますね」

 シイが外を見つめながら呟いた。

「そうだな」

 俺も外を眺めながら答える。


 少し沈黙が続いた。

 ふとシイの方を見ると、どうやらてるてる坊主を作っているようだった。

 てるてる坊主という言葉自体がとても懐かしく感じた。

 俺は黙ってペンケースを取り出すとシイの近くに置いた。

「ありがとうございます。山田さんも一緒に作りませんか?」

「いや、俺はいいよ」

 こういう細かい作業は苦手だった。

 俺の作ったてるてる坊主なんて見たらきっとシイに笑われてしまう。

 俺は芸人ではないし、笑いを取るためにそんなことをするつもりはない。

 少ししてシイが「山田さん山田さん、てるてる坊主ができましたよ」と俺を呼んだ。

 見ると、てるてる坊主が二人シイの手のひらの上に仲良く立っていた。

 その二人は目がくりくりっとしてして、いかにも女子が作りましたと言わんばかりだった。

 そのてるてる坊主の服にはそれぞれ『シイ』『山田さん』と書かれていた。

「よく出来てるな」

「ありがとうございます」シイは嬉しそうに笑った。

「まぁ、俺はそんな可愛くはないけど」と付け足す。

「そんなことを言ったら私だって可愛くありません」お互い様ですと笑った。

 俺はそのてるてる坊主を室内の窓際に吊るした。

「ベランダに吊るさないんですか?」シイが不思議そうに尋ねる。

「俺は雨の日は基本インドア派だからな」

 外に吊るすのがなんとなく嫌だった俺は適当な言い訳をして誤魔化した。

「なるほど、山田さんなら仕方ないですね。じゃあ私は巻き添えですね」とシイが納得したみたいだった。

 あ、納得しちゃうんだ……

「山田さんは普段、雨の日は何して過ごしてるんですか?」

「本読んでるかな、雨の日も晴れの日も関係ないんだけど」

「へぇ、どんな本読んでるんですか?」

「いろいろ読んでるよ、まぁ文芸書が多いかな」

 シイが首をかしげたので話を変える。

「そういや映画借りてきてたんだけど見てみるか?」

「あ、いいですね。どんな映画ですか?」

「一つは恋愛もの、もう一つは多分怖いやつだと思う」

「恋愛もので」

 シイは食い気味に即答した。

 まぁ女子ならそうくるか。


 それから俺たちは静かに映画を見ていた。

 それは良くも悪くも、よくあるストーリーだった。

 それでもシイは満足そうだった。

「良いお話でしたね」

「あぁ、なかなかよかった」

 こういうベタな話も好きだったので俺も満足だった。

 シイはこのシーンが甘酸っぱくて良かったとか、あのシーンは感動しただとか楽しそうに話していたので俺は終始頷いていた。

「でもやっぱりハッピーエンドってのがいいですね」

「そうだな、悪くない」

「山田さんもこういうの見るんですね、意外です」

「まぁたまに見るぞ」

「隣の芝生は青かったですか?」シイがからかってくる。

「ほほう、きみはそんなにホラーが見たいと」

 俺は笑みを浮かべるとホラー映画の表紙を見せつける。

「すいませんでした」とシイが笑いながら謝る。

 俺がDVDを片付けていると--

「山田さんは彼女さんとか居ないんですか?」

 ココアシガレットをくわえているシイと目があった。


 一瞬、時間が止まったような錯覚に陥った。

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