第6話 山田さんは友達がいない
そのあと俺たちはスポーツのレンタルをすることにした。
小さな小屋の受付には管理人のおばさんが一人だけいた。
おばさんは俺たちを見るなりニコニコして話してくる。
「こんにちは、これ書いてねー」と気さくに用紙を渡してくる。
俺が借りる手続きをしている間、おばさんとシイはなにやら楽しそうに話していた。
なにを話しているのかよく分からなかった。興味がないので聞いていなかっただけなのだが。
いろいろとレンタルできたのだが、俺はあまり足に負担のなさそうなフリスビーにした。
シイはおばさんとの話が楽しかったのか嬉しそうにニコニコしていた。
その笑顔があまりに綺麗だったので俺はシイの顔が見れなかった。
俺たちは広い芝生の中で軽くフリスビーを投げあっていた。
体を動かすのは別に嫌いじゃない、こうしている間は嫌なことを忘れられる気がするから。
少しした後、俺の足元にボールが転がってきた。
確かこれは子どもたちのドッジボールのボールか。
それを拾い上げると子どもたちが「ありがとー」と手を上げてボールが投げられるのを待っていた。
俺は軽くボールを放ると一人の子どもが上手くキャッチする。
その近くの木陰からその子どもの母親らしき人が俺に会釈するのが見えたので俺も軽く会釈した。
「悪い、待たせたな」
「いえいえ、大丈夫ですよ。山田さんやっぱり優しいですね」
「あれくらいで優しいとは言わないだろ、当然の行為だ」
ゴミが落ちていたから拾った。それくらい当然のことだ。
シイがニヤニヤしていたので俺は話を変えることにする。
「なぁ、ドッジボールでボールを避けるのはなんでだと思う?」
フリスビーを投げながら聞いてみた。
「突然ですね」
上手くキャッチするシイ。
「まぁいいから」
「そうですね……アウトになりたくないからですか?」
と言ってフリスビーを投げる。
「思ったよりいい答えがきたな」
「違いましたか?」
「いや、違うとかはないんだ」
「ちなみに山田さんは何だと思うんですか?」
「俺の答えはもっと本質的で単純のものさ」
「……それは、なんでしょう?」
少し考えた後に答えを聞くシイ。
「さぁ、考えてみたら?」
俺は少し悪戯っぽく言った。
その後は二人で弁当を食べることにした。
「外でお弁当を食べるのってなんかいいですよね」
シイは嬉しそうだった。
俺は黙って頷いてシイの握った梅干し入りのおにぎりを食べていた。
ふむ、こういうのも悪くないな。
帰り道、隣を歩くシイは俺の肩をトントンとつつきながら聞いてきた。
「さっきの問題なのですが……」
「え、なんかあったか?」
「ドッジボールのやつです」
「あぁ、あったなそんなの」
ふつうに忘れていた。
「答えを考えたのですが、やっぱりよくわかりませんでした」
なんてシイが真面目な顔をして答えるものだから俺は思わず吹き出してしまった。
「なるほどねぇ、それでいいんじゃない?」
「山田さん、さては馬鹿にしてますね」
シイは珍しく拗ねていた。
「いや、数学じゃないんだからこの問題にこれという解答はないんだ」
「じゃあ、山田さんの答えを聞かせてください」
「え、やだ」
「そんなのは不公平です」
シイが子どもみたいな怒り方をするものだから、俺はますます教えたくなかった。
それでも聞かないと気が済まない顔をしていたので嘆息混じりに話し始める。
「まず俺はなぜボールを避けるかって質問をしたよな」
「はい」
「シイはアウトになりたくないからと答えた。その答え、俺はいいと思った。最初にも言ったが、この問題は理由さえあれば答えはなんだってよかったんだ」
シイが黙って俺の言葉の続きを待っていた。
「俺なら当たると痛いからそう答える」
「……それだけですか?」
「当たると痛い、痛いのは嫌だ、そんなことは子どもでも知ってる」
「そのくらい簡単に考えればいいのさ、シイは考えすぎだ」
「どんな行動にも必ず何かしら理由がある。そんでその理由ってのは案外単純なものなんだ」
シイは難しい顔をしていた。
「ほら、俺が友達のいない理由も案外単純なものだろ?」
「そうですね、よくわかりました」
シイは意地悪っぽく笑った。
帰った後も俺たちはこういったくだらない話に花を咲かせていた。
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