第8話 熱

「ごめん、白」


 泣くな。泣くな。僕は泣いてはいけないんだ。

 僕が、白を、だましていたんだ。



「紺、おはよう」

「おはよう、白」

「……藍は?」

「もう、帰ってしまったよ」

「…そう」


 もう、気づいてしまったかな。僕が、藍だと。

 いや、気づいていない。そう思いたい。白が何か言ってくるまで、僕は何も言わない。聞かない。知らない。そうしよう。



「さぁ、紺。今日は散歩に行くわよ!」

「え? 昨日、熱があったんだよ。無理しなくてもいいんだよ?」

「いいえ、私が行きたいの。だめ?」

「う……いいよ」

「よし!」


 なんでだろう、今日はすごく元気だ。あ、いや。絡まりしているだけか。自分が今、何をすればいいのかわからないんだ。

 わからないから散歩をしようと言ったんだ。

 独りでは寂しいから僕のことも誘ったんだ。独りで考えるのが怖いから。


 僕が傍に言って支えてあげることができたら。あの子を悲しませないのに。いや、悲しませているのは僕か。


 もう、あの子に話してしまおうか。もう、隠すのはつらい。

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