第9話 戻る日を願って

 本当の心は誰にもわからない。本当の気持ちも。けれど、人は心を探そうとする。自分の心を取り戻すため。

 心のない人間なんていなくて、誰もが持っている。なのに、人の心がほしいのだろうか。人の気持ちが、ほしいのだろうか。



「おはよう、白」

「おはよう、紺」


 いつものように起きて、挨拶をする。でも、何か足りないものがある。けれどそれは、戻ってくるものではなくて、取り戻せるものでもなくて、どうにもできないもの。

 私が取り戻したくても、取り戻せない。どうすれば、私のもとへ帰ってきてくれるだろうか。

 思い出の場所へ行っても、あの子はいない。

 散歩をしていても、あの子とは会えない。


「…どうしたら、いいんだろう」


 思い出の夢は見る。けれど、あの子には思い出でしか会えない。思い出ではなくて、本当のあの子に会いたい。

 会いたい。寂しい。悲しい。愛しい。


「会いたい………」


 会って、話したい。話をたくさんしたい。たくさん、あの子に話して、楽しく遊びたい。


「白、今日は桜を見に行こう」

「え?」

「結局行けてないでしょう?」

「うん…。でも、無理に行かなくてもいいんだよ。嫌いでしょう?」

「いや、好きだよ。あいつと行ってほしくなくて、嘘ついたんだ」

「え! そうなんだ」

「…うん。懐かしいね」

「本当、昨日のことみたい」


 楽しかったあの頃。眩しかった日々。輝いていた笑顔。それがすべて消えていき、私の中から無くなった。


 いつか戻ってくるときが来るのかな。

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