第3話 おまじない

 眠る前のおまじない。あの子が教えてくれた。

 これも思い出。


「夢はひとつの世界。その夢の世界も同じものはひとつもない。

 同じものを見るには、お願いをするんだ」

「お願い?」

「うん」

「どうやって?」

「私をあの人へと繋げてください。お願い申し上げますって」

「そう言えばいいの?」

「うん、きっと僕にも会えるから」


「…お願い申し上げます」

 いつものお願い。でも、一度も聞いてもらえなかった。あの子に会えなかった。


「おやすみ、紺」

「おやすみ」


 眠りについた私は、今日もあの子に会えることを信じている。



「もう眠ってしまった?」


 返事はない。眠ってしまったようだ。いつも疲れた顔をしている。それでもお願いをしてから眠る。お願いは、効かないと分かっているのだろう。

 けれど、お願いをしていたらいつか会えると信じているのだ。あいつに教わったことだから。


 そんなにあいつに会いたいのか?

 狐の僕にはわからないことだけれど、きっと女の子はあのころのような思い出がほしいのだと思う。

 僕はあいつに会ったことがある。一度だけ。

 だから女の子があいつにもう一度会いたいと思う気持ちも分かる。


 僕は狐だけれど、力を持っているから話せるし、人間の姿にもなることができる。あいつの姿をイメージして変われば、あいつの姿にもなれる。

 でも、女の子は喜んではくれない。


 ただ、あいつがいないことを再確認するだけ。僕はそれでも、あいつの姿を借りてあの子を見守り続ける。


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