第2話 思い出

「思い出、ひとーつ。ふたーつ。みーっつ。よーっつ」

「数えても増えないよ?」

「いいんだよ。これが思い出になるんだから」

「どういうこと?」

「数えていることが思い出になるだろ」

「そうかしら」

「そうなんだよ」


 消えていく。まだいなくならないで。もう、消えないで。


「…おはよう、紺」

「おはよう」


 まだ少し残っている、あの子との思い出。もうよっつもないのかもしない。あの子との大切な思い出は。

 数えたら、増えるのかしら。


「今日は会えた?」

「……ううん」


 もう、会えないのかな。いえ、会える。必ず、また会ってくれる。きっとすぐそばまで来ているけれど、恥ずかしくて出てこれないのよ。

 そんな子だったもの。きっと、きっと…。


「いってらっしゃい」

「うん」


「思い出、ひとーつ。ふたーつ。みーっつ」

 まだみっつはあった。

 もうみっつしかない。

 思い出はたくさんあったのに、私が忘れてしまったのね。私が忘れなければ、あの子は帰ってきてくれるのかしら。

 この歌も忘れてしまうかも。

 忘れたくない。ずっと、あの子が来るまで歌っていたい。


「思い出、ぜーんぶなくらない。この歌歌えば思い出ひとーつ…」


 私は泣かない。もう泣かないって約束したから。

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