夢よりも

燈 哉

第1話 さがしもの

 もう一度、もう一度だけでも会えたのなら、もう私は目覚めないというのに。あなたに会えないから、いつも起きてしまうの。


「おはよう、白」

「…おはよう、紺」


 もう朝になってしまった。いつの朝。変わらない、朝。


「今日は会えた?」

「……ううん」


 いつもの会話。いつものあの子の不愛想な顔。


「いってらっしゃい」

「うん」


 二年前はあの子も笑っていた。目尻を下げて、きれいな歯を見せて笑っていた。僕もそれを見て笑った。僕たちにはいつも笑いが溢れていた。

 あの子は無愛想なんかじゃなくて、よく笑い、よく泣いて、よく怒っていた。

 そんな、普通の女の子だった。


 あの子の笑顔を取り戻すには、きっとあいつが戻ってくるしかないんだ。



 幼いころ、その女の子は夢で男の子に会った。

 その男の子は、女の子のところにしか現れず、女の子がいくら話しても男の子のことは誰にも信じてはもらえなかった。

 でも、女の子はとても嬉しそうだった。少し暗かった女の子が明るくなり、みんなは不思議がっていた。結局、女の子が楽しそうに過ごしているから心配はしていなかった。


 ある日、女の子が起きてから泣き出した。そんなこと今まで一度もなかったのに。

 何故泣いたのか聞いてみると、あの男の子に「さようなら」と言われたと言った。

 だが、誰も何も言わなかった。

 もともとこの世界に存在している人ではないから。そもそも人ですらないのかもしれない。そんなことをみんなは思っていたからだ。

 それからまた、女の子は笑わなくなってしまった。



「今思えば、あの時なんであんなことしたんだろう」


 考えても分からない。僕は何をしたかった?

 女の子の家族はいなくて、あいつもいなくなって、独りぼっちだったから…?


 答えは分からない。きっと探しても見つからないから。

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