儚き 可能性世界接続端末(端末版アスウェルエンド)
仲仁へび(旧:離久)
11 第一部 殺戮の館
頭の中に響いた声に背中を押されるように、アスウェルは銃の引き金を引いていた。
「ぁ……」
檸檬色の少女は悲し気な表情のままその場に倒れ伏す。
血だまりが床に広がっていく。
それが、なぜか殺された両親の姿へ重なった。
ややあって、部屋に入って来たアレス。アスウェルは当然そいつも撃ち殺す。
躊躇わない。引き金は引いてしまった。
選択はしてしまったのだ。
今さら止まるわけにもいかない。屋敷の主人の下へと走る。
「動くな!」
部屋に入るなり、そこにいる者達へ銃を突きつける。
内部にはレンもいた。
紅茶を淹れていた様だ。
柔らかな甘い匂いが部屋を漂っていた。
近くにはカットされた果物も皿の上に乗っている。
平和そのものの光景。
ひょっとしたら心のどこかで、そんな日々も悪くないと思いかけていたかもしれない光景。
だが、全てもう意味がない。
「アスウェル様?」
「……」
アスウェルは引き金を引いた。
レンが倒れる。
「ひぃっ、ひぃぃぃっ、待て、殺すな」
ボードウィンはみっともなく悲鳴を上げて命乞いをした。
聞きたい事はあるのに、これではまともな応答は期待できない。
「お、お前そうか。あの時のだな。組織が殺しそびれた行方不明になっている子供……っ、やはり罠を張っていれば現れたかっ」
禁忌の果実が関わって生き残った人間などいない。
だがアスウェルは何の奇跡か生き延びてしまった。
アスウェルはその時から組織に目を付けられていたのだろう。
奴らは探していたはずだ。アスウェルが探していたのと同じように。
罠を張って、準備をして、時期をみて。
そして、のこのここうしてアスウェルが姿を晒すのを待っていたというわけだ。
「ひょひょひょっ、貴様なんぞ、あの小僧にかかればすぐに始末されるはずだ」
余裕が戻てきたのか、うすら笑いを浮かべるホードウィン。
小僧。
やはりこの屋敷にいる使用人は、禁忌の組織の構成員だったのだ。
躊躇わなくて良かった。
あやうく騙される所だった。
あのまま慣れ合いを続けていたらどうなっていたか。
さて、これからどうするか。
頭の中を覆っていた霧が晴れたような心地で、先の事を考えようとした矢先だった。
ジジ……。
視界の中を青白いスパークが弾けた。
「そ、そんな話が違うではないか。まさか私を切り捨てたのか」
ボードウィン慌てた様子で部屋から逃げ出そうとする。
当然そうさせるわけにはいかない。足を打ち抜いた。
「いひぃ、……い、いだぃ、あしがぁ……っ!」
何が起こっているか分からないが、危険だという事は見れば分かる。
ボードウィンを尋問している暇などない。
痛みにのたうち回るそいつを撃ち殺した後、屋敷を出るために走る。
だがその先の廊下で、
「あ、アァ……」
使用人の……確かコニーとか言うレミィと年の近い少女が血を吐きながら、のたうち回っているのを見た。
ここで、何か尋常じゃない事が起きようとしている。
「う……、ぐ……」
それを証明するかのようにアスウェルにも異変が起きた。
立っていられない。
体の中で刃物がひとりでに動き出して、引き裂かれているようなそんな痛みが襲いかかってきた。
一歩も動けない。
視界の隅で、コニーという少女が溶けて、ぶよぶよとした肌色の肉塊に変わっていくのが見える。
肉塊の中に服は沈み込み、焼け焦げて、手足は塊の中から、子供が工作で乱雑に取って付けたかのように生えている。
そこにいるのは、もはや人間とは言えないなにか。異形の化け物だった。
化物がこちらに向かってくる。
屋敷の中ではスパークが発生していて、段々と強く、眩しいほどになっていた。
……俺も、あんな風になるのか?
それともそうなる前に、あの化物に殺されるのか。
視界が、白く、白く染まっていく。
アスウェルが考えられたのはそこまでのようだった。
ロード機能を使いますか?
一つ前のセーブ地点へと戻ります。
「https://kakuyomu.jp/works/1177354054881718998/episodes/1177354054882707270」
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