●彼の見ていた光景
どういうわけか、俺はその戦いの中で見つけてしまった。見つけ出してしまった。
銃を撃ちながら攻め込んでくる仮面の女子たちに、ゲリラ的に接近戦闘をしかける男ども。
その構図の中で、一人だけ浮いている仮面の
仮面を付けたその小さい少女は、その外見からは想像できないだろう力と技で、次々と男どもをのしていた。
(まさか……まさか、だよな?)
しかしその体術の型と着ている制服……そして見間違えようのないちみっこい体型に、見覚えがあった。
(オイオイオイオイ……! 本当に「あいつ」とか言うんじゃないだろうな!?)
そんな嫌な予測が頭をよぎってから、俺は半ば本能的に動いていた。そいつに近付き、挑発し、一対一の状況を作り出し――拳を交えた。といっても、本気の殴り合いなんかじゃない。相手の正体を見極めるための様子見。
だから、どうにか《纏》の力を抑えつけて戦った。いつもよりずっと相手の動きを捉えやすいのはいいのだが、うっかり殴る時にでも暴発させたら、この細っこい身体はあっさりと折れてしまいかねない。
そうして戦って、予測が確信に変わり始めた頃――その子は足場から足を踏み外し、落ちた。俺は《纏》の力でとっさに彼女を助け出したのだが、どういうわけか彼女は意識を失っていた。
なにもかも、ワケが分からなかった。
▲▼▲▼▲
「姐さん!」
俺は、意識が戻らない例の少女を抱えて、姐さんが控える塔を駆け上っていた。幸い敵ままだ一人も来ていなかったようだったが、姐さんと傍に控えるフェルゼン兄貴は俺がやってきたことにひどく驚いていた。
「タイガ!? ち、ちょっと、どうしたのさその子!」
「分からねぇ! でも多分俺の知り合いなんだ、こいつ! でも、急に意識を失って――!」
パニック状態の俺の説明にもかかわらず、姐さんはある程度俺の意図を汲んでくれたようだった。
「……なるほど、なんとなく分かった。詳しい事情はもう後で聞かせてもらうよ。とりあえずそろそろ撤退する頃合いだと思ってたところだし」
そう言って姐さんは塔の外をちらりと見下ろした。すでに塔の真下まで少女たちが迫っているようだった。このままでは、姐さんが発見されるのも時間の問題だろう。
「いい、タイガ。その子離すんじゃないよ。置いてっちまうかもしれないから」
アル姐さんの言葉に、俺は腕の中の少女をぎゅっと抱きしめていた。――気持ちは焦るばかりだが、うっかり《纏》で彼女を傷つけたりしないようにと、必死に心を落ち着かせて。
それを見届けた姐さんは、安心したように塔の外へ視線を移し、杖を目の前にかざして思いっきり声を張り上げた。
「【野郎ども、引き上げだ! じゃあね、お嬢ちゃんたち!】」
瞬間、足下から地面が消えるような、嫌な感覚が襲ってきた。それでも少女を手放すまいと腕に力をこめ、目をきつく閉じた。すると、聞こえてくる争いの喧噪はどんどん遠くなり――やがて辺りはしんと静まりかえった。
「……ほら、もう大丈夫だよ」
姐さんの声に目を開くと、そこには森だけが広がっていた。近くには仲間の男たちがいたものの、住み慣れた遺跡も、仮面少女たちも――腕の中の一人を除いて――すっかりいなくなっていた。
「あの場所を捨てて、仲間だけ連れて遠くに転移したのさ。これであの娘らも一応は納得するでしょ」
ふん、と鼻を鳴らして姐さんは言った。その声色は自慢げでもあり、同時にあの少女たちに対する哀れみもいくらか含まれているような気がした。
「さーて、ちょっと待っててね、今大急ぎで新しい住処を作るから。それが終わったら、ゆっくり話を聞かせてもらうよ。……あんたと、その子にね」
そう言って姐さんは、また多くの建物を作るべく、歌うように魔法を紡ぎ出し始めた。
それから――日が傾き、姐さんの作業が終わるその頃まで――俺はずっと少女を抱きかかえていた。その間、ずっと彼女の意識が戻ることは無かった。
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