SHOCK 17

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 あれから、1ヶ月が経過した。

 信也は修理工場で再び働き始め、あたしは黒紅連合を解散し、高校に通っている。美濃が行方不明となり、学校で好奇な視線に曝されながらも、この現状から逃げないと決めた。


 それが美濃に対して、あたしが唯一出来ることだから。


 陥没事故現場は瓦礫を全て取り除き、行方不明者の捜索は打ち切りとなり、復旧工事を終え今は更地になっている。


 ――3月、春休みとなり、あたしは母の許可を得て信也と2人で大阪に向かった。


 信也には、まだあの本のことは話してはいない。


 日常を取り戻した信也が、あの本を読むことで、再び錯乱状態に陥り命の危険に脅かされることが怖かったから。


 信也は、現世では勤勉な社会人。戦国武将なんかじゃない、普通の青年だ。


 あれから一度も、戦国時代や紅のことを口にすることもない。


 あたしは天下泰平の社長や、居酒屋のマスターにからかわれたのかな。


 それとも……

 本当に織田信長の魂は、本能寺に戻ってしまったのだろうか……。



 ―大阪―


 天王寺公園の近くに橋本多々男さんは住んでいた。東京から訪ねて来た見ず知らずのあたし達を、橋本さんは笑顔で迎えてくれた。


「遠方より、よくお越し下さいました。あなたが斎藤さんのお嬢さんですか。ご両親のことはよく覚えてますよ。とても仲の良いカップルで、お父さんは熱心にメモを取られてました。

 お父さんが早くに亡くなられたことは存ぜず、お母さんは女手ひとつでさぞ苦労されたことでしょう」


 仲の良いカップル……。

 若き日の両親の姿を垣間見た気がして、母に反抗していた自分を恥じる。


 あたしと信也は1階の座敷に通された。

 橋本さんは和室の床の間に置かれていた桐の箱を、あたしの目の前に置いた。


 畳の上に置かれた桐の箱。

 箱の角は黒ずみ、時代を感じさせる。


 桐の箱には斎藤家の家紋があった。


「これは私の先祖が、斎藤家より賜りし桐の箱です。蔵を整理していて見つけたのですよ」

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