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部屋を出て仏壇に髪の毛と短刀を置き、手を合わせた。
「紗紅お帰りなさい。紗紅……これは……!?」
母は和紙に包まれた髪の毛と短刀を見つけ、目を見開いた。
「……母さん。これは美濃の髪の毛だよ。離れ離れになる前に、美濃がこの短刀で切り落としたんだ」
「美濃が……。美濃……美濃……」
母は美濃の髪の毛を胸に抱きぽろぽろと涙を溢した。どうして美濃が自分で髪を切らなければならなかったのか、母が私に聞くことはなかった。
私も母を混乱させたくなくて、それ以上は話せなかった。
母は仏壇に美濃の髪の毛を供え、両手を合わせ拝んだ。あたしに視線を向け涙声で「美濃を連れて帰ってくれてありがとう」と言った。
お礼を言われることなんて、何ひとつしていない。
――あたしは美濃を……
戦国時代に置き去りにした……。
冷静さを取り戻した母は、短刀に視線を向けた。
「……これは斎藤家の家紋ね」
「……母さんこの家紋がわかるの?」
「二頭立浪に撫子……。父さんが生きていた時に、斎藤家の家紋だと教えてくれたのよ」
「……父さんが?」
「今まで話したことはなかったけれど、父さんのご先祖は斎藤道三という戦国武将だったらしいの……。母さんは戦国武将のことはよくわからないけど、有名な人だったみたいね」
「……斎藤道三って、
「紗紅よく知ってるわね。その短刀何処で見つけたの?父さんの遺品に短刀なんてあったかしら……」
「これは美濃から貰ったんだよ」
「美濃から?知らなかった。父さんがこんな大切なものを美濃に渡していたなんて」
「母さん。斎藤道三の娘は、織田信長の正室だよね」
「そうよ。“斎藤道三は油売りから身を興し、一代で美濃国の戦国大名になった”と聞いたわ。父さんは『今は苦労させているが、俺もいつか斎藤道三のように、一代で財産を築いて見せるからな』って、口癖のように話していたの。その夢を叶えられないまま亡くなってしまったけれど、子供は美濃国の姫君のように、いずれは織田信長のような立派な男に嫁いで欲しいとの願いから、美濃と名づけたのよ」
「あたしたちが……斎藤道三の子孫!?」
「父さんの話が本当なら、そうなるわね。でも、ご先祖様が正室の子供かどうかは、わからないの」
あたしは驚きのあまり、目を見開く。
「父さんは歴史が好きだったから、母さんに色々な話を聞かせてくれたのよ……」
「……あの父さんが?」
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