171
その本は史実ではなく、歴史的文献を参考にしたフィクションとなっていた。この作家が、何を根拠に執筆したのか定かではない。
でも、まるで一緒に時を過ごしていたかのように、詳細に書かれている。
この本に書かれている身代わり姫が、姉の美濃であるならば……。
この著者に聞けば、美濃の最期がわかるかもしれない。
◇
――目を閉じ、夢の記憶を手繰り寄せる。
あの日、あたしは帰蝶に呼ばれ美しい打掛に身を包み、信長に抱かれた。
――そうだ。帰蝶との別れ際に、斎藤家の家紋が入った短刀を渡された……。
あたしはその短刀と美濃の髪の毛を特攻服の内ポケットを忍ばせ、白馬を走らせ本能寺に向かった。
――もしも……
特攻服の内ポケットに短刀と髪の毛があったなら……。
この小説はフィクションではなくノンフィクションであり、あの出来事が夢ではなくタイムスリップだった証拠となる。
あたしと美濃は……
戦国時代にタイムスリップし、信也は……織田信長……!?
「この本、借ります!」
あたしはその本を掴み受付カウンターに持って行く。貸し出しの手続きを済ませ、図書館を飛び出す。
――信也がずっと探していた本は、これなんだ。
――信也が知りたかったのは、これなんだ。
身代わり姫が美濃だと書かれているということは、帰蝶のことをよく知る人物。その人物こそが、著者と何らかの拘わりがあるに違いない。
一体、誰が――……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます