171

 その本は史実ではなく、歴史的文献を参考にしたフィクションとなっていた。この作家が、何を根拠に執筆したのか定かではない。


 でも、まるで一緒に時を過ごしていたかのように、詳細に書かれている。


 この本に書かれている身代わり姫が、姉の美濃であるならば……。


 この著者に聞けば、美濃の最期がわかるかもしれない。



 ――目を閉じ、夢の記憶を手繰り寄せる。


 あの日、あたしは帰蝶に呼ばれ美しい打掛に身を包み、信長に抱かれた。


 ――そうだ。帰蝶との別れ際に、斎藤家の家紋が入った短刀を渡された……。


 あたしはその短刀と美濃の髪の毛を特攻服の内ポケットを忍ばせ、白馬を走らせ本能寺に向かった。


 ――もしも……

 特攻服の内ポケットに短刀と髪の毛があったなら……。


 この小説はフィクションではなくノンフィクションであり、あの出来事が夢ではなくタイムスリップだった証拠となる。


 あたしと美濃は……

 戦国時代にタイムスリップし、信也は……織田信長……!?


「この本、借ります!」


 あたしはその本を掴み受付カウンターに持って行く。貸し出しの手続きを済ませ、図書館を飛び出す。


 ――信也がずっと探していた本は、これなんだ。


 ――信也が知りたかったのは、これなんだ。


 身代わり姫が美濃だと書かれているということは、帰蝶のことをよく知る人物。その人物こそが、著者と何らかの拘わりがあるに違いない。


 一体、誰が――……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る