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混乱しているあたしを、信也は見据えた。その目はとても鋭い光を放ち、思わずゾクリとした。
その眼差しに……
見覚えがあったからだ。
「……信也、元の場所って?」
「俺が戻るべき場所は、本能寺なり」
あたしは信也の言葉に耳を疑う。
「織田信長のことをこの世の書物で調べ、よくわかった。俺は本能寺で自害するべきだったのだ」
「……冗談はやめて。あなたは織田信也、信長じゃない!どうして死ななければいけないんだよ。死ぬ必要なんてない。だって、明智光秀が信長を逃がしてくれたんだ……」
思わず口から飛び出した言葉……。
朧気な記憶が、鮮明に蘇る。
――そうだ。
あの時、燃え盛る本能寺で明智光秀が織田信長を逃がした。
でもあれは、夢の中の出来事……。
現実なんかじゃない。
「やはり……そうか。紗紅は……
紅……?
どうしてその名前を……?
あれは、夢……。
夢の中であたしが名乗った……名前……。
だってその証拠に、何十年も戦国時代にいたのに、あたしは歳を取らなかった。
「本能寺にて俺は死ぬはずだった。いや、落ち延びる途中で死んでしまったのやもしれぬ。地震のように地面は揺れ、本能寺は火に包まれ崩れ落ちたのだからな」
「信也は錯乱してるんだよ。歴史書で知り得たことを現実だと錯覚してるんだ。自分が織田信長だと、勘違いしてるだけ。しっかりしてよ!」
あたしは信也の体を掴み激しく揺する。
信也は突然あたしの右腕を掴み、Tシャツの袖をまくり上げた。
「……な、何をするの!」
「これは陥没事故で負った傷ではない。小谷城を攻めた際に負った傷だ。俺が手当てした」
あたしの右腕には……
傷痕があった。
これは……
月華に襲われ、暴行された時に出来た傷だ。
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