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翌日、信也のアパートに行く前に、喜与の家に立ち寄る。喜与の家は公営住宅から徒歩で行ける距離にあった。
――あの日、事故で生き残ったのはあたしと信也だけ。美濃は行方不明で、倉庫内にいた者は全員死亡が確認されたと母から聞いたが、陥没直前の混乱で喜与達が倉庫内にいたかどうかの確信はなく、揺れを感じた時に、運よく3人とも倉庫から逃げ出したのではないかと思っていた。
もし3人が生きていたら、美濃のことも何か知っているかもしれない……。
――喜与の家のチャイムを鳴らすと、母親が顔を覗かせ、驚いたように目を見開いた。
「こんにちは、おばさん」
「……斎藤さん。ニュースで見たけど、本当に無事だったのね。良かった……良かった……」
「おばさん、喜与は?」
「……喜与は。あんなバカな子はいないよ。暴走族なんかに入るから、こんなことになったんだ」
喜与の母親は、玄関先で泣き崩れた。
「……おばさん。まさか……」
「喜与も岸本さんも三上さんも、みんなあの日……死んでしまったのよ」
「嘘だよ。……おばさん!嘘だよね!」
おばさんはあたしを家の中に入れてくれた。1階の和室に置かれた小さな仏壇。そこには喜与の遺影とお菓子や缶ジュースが供えてあった。
あの陥没事故で……
3人が死んでしまった……?
――そんなの、嘘だ…………!
「……喜与ごめんね。喜与……ごめんね」
あの日、あたしが『バイクでぶっ飛ばそう』と言い出さなければ、3人が月華に捕まることはなかったんだ。
「斎藤さん、暴走族に入ろうって誘ったのは、喜与なんでしょう。あの子が誘わなければ、そもそもこんなことにはならなかったのに。ごめんね」
違う……
喜与は悪くない。
あたしは自分の意思で暴走族に入ったんだから。
社会から弾き出されたあたしを受け入れてくれたのは、社会から逸脱した闇の世界しかなかった……。
闇の世界でしか……
あたしは生きられないと思っていた。
でも……
その闇は、あたしの大切な人をみんなみんな奪ってしまった。
その事実を認めなければ……
あたしは……何も変わらない。
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