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「俺の名は本当に織田信也なのか。お前の名は斎藤……」


「あたしは斎藤紗紅」


「……さく」


 あたしの名前を聞き、信也が苦痛に顔を歪め頭を両手で押さえた。顔は覚えているのに、名前は忘れてしまったのかな。


 記憶障害は一時的なもの。

 医師は、記憶はすぐに回復すると言っていた。


「信也、もう休んだ方がいいよ」


 信也はベッドで横になる。


 看護師が点滴の準備をし、再び病室に戻ってきた。信也の腕に針を刺そうとすると、突然飛び起き身構えた。


「……織田さん、どうされたのですか?動かないで下さい。点滴すれば体力も回復し、じきに退院出来ますからね」


「……退院」


「先ほど勤務先の社長さんと連絡がつきましたよ。もう安心ですね」


「勤務先の社長……」


 看護師が腕に点滴を刺し、「点滴が終わったらブザー押して下さいね」と言い残し退室した。


 信也は看護師が退室すると、すぐに注射針を引き抜く。周囲に点滴が飛び散った。


「信也、何してんだよ!」


「毒を盛られては困るからな。俺は命を狙われている」


「やだ。これは毒なんかじゃない。雷竜会の2人もあの事故で死んだ。あざみも月華も死んだ……。もう誰もあたし達に危害を加えるものはいない」


 信也はあの乱闘事件がトラウマになっているんだ。

 

 未だに、誰かに命を狙われていると思っている。


「紗紅、俺はどうすればこの夢から目覚めることができるのだ」


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