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――その日から、あたしは自分の病室を抜け出し信也に付き添う。信也に一日も早く自分自身を取り戻して欲しいから。
「斎藤さん、また来てるのね。彼が気になるのはわかるけど、自分の治療も優先して下さいね。まだ体力は回復していないのだから」
「はいはい。わかってます。あたしと信也、同じ病室にしてくれればいいのにな」
「まあ、仲がいいこと。でも、それはちょっと無理ね」
看護師さんは笑いながら病室を出る。
信也は窓の外を見つめ、不意に立ち上がる。カーテンを勢いよく開け、深い溜息を吐いた。
「……信也、あの事故で、沢山の人が死んだんだ……」
「沢山人が死んだ?そうだな。沢山の命が奪われた……」
「美濃はまだ行方不明なんだ」
「……美濃?」
「あたしの姉、あの時、倉庫に監禁されていたんだよ」
「俺も死んだのか?」
「信也は一度心肺停止状態になったらしいけど回復したんだ。先生が奇跡だって……」
「やはり、俺は死んだのか……。ここは死後の世界なのか」
「違うよ。あたしも事故に遭った時に、夢を見たんだ。とてもリアルな夢だった……」
「俺は、今だに夢を見ている……」
信也が見つめる先は……
ビルが立ち並ぶ街。
ふと、医師の言葉を思い出す。
『一時的な記憶障害』、信也は事故のショックで混乱している。
でも、あたしのことは……
ちゃんと覚えていてくれたんだよね。
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