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「……はい。わかりました。協力します」
トクントクンと鼓動が早まる。
きっと信也に違いない……。
あたしはベッドから起き上がり、点滴をしたまま車椅子に乗せられた。看護師に車椅子を押され、医師と共に集中治療室に入る。
医師の話では、その男性は重篤な状態で搬送され、一時心肺停止状態に陥ったものの、奇跡的に回復したらしい。
集中治療室に入ると、ベッドに横たわっていたのは……。
「信也!無事だったんだね!信也ー……」
取り乱すあたしに、医師は冷静に対処する。
「彼をご存知でしたか。よかった」
瞼を閉じていた信也が……
ゆっくりと目を開けた。
その瞳は、1週間もの間、意識不明に陥っていたとは思えないくらい、鋭い眼光を放っていた。
心電図は綺麗な波形を描き、脈拍も血圧も安定している。
信也は暫くあたしを見つめていたが、自ら酸素マスクを外した。
「……生きて……いたのか」
「……うん」
「そうか……よかった」
医師があたしに問いかける。
「斎藤さん、彼の名前をご存知ですか?」
「はい。織田信也さんです。勤務先も住まいもわかっています」
「織田さんですね。身元がわかり安心しました。状態も安定しているので、個室に移りましょう」
信也は医師の話を黙って聞いていたが、記憶が混濁しているのか、あまり多くは語らなかった。
あたしは陥没事故現場で、生死の境を彷徨っていた間、長い長い……夢を見ていたんだ。
まるで、タイムスリップしたかのような夢の中で、美濃も懸命に生きていた……。
――そう……
あれは……夢……。
タイムスリップなんて現実にはありえないし、このあたしが戦国の世で織田信長と恋をしたなんて、どう考えても非現実的だから。
信也もきっと……長い間生死の境を彷徨い、あたしのように違う世界を見ていたのだろう。
そして、現実に引き戻してくれる身内もなく、今も混乱している……。
それならあたしが……
信也を現実世界に引き戻す。
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