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◇
――どれくらい眠っていたのだろう。
意識を取り戻すと、そこは病室だった。
あたしはパジャマ姿で、側には母が寄り添い、手を握り締めていた。
「紗紅……紗紅……。よかった……気がついたのね。本当に……よかった」
母は声を上げ号泣した。
「……母さん……あたし……」
――あたしはずっと……
瓦礫の下に……?
だとしたら……
これが……現実世界……。
「1週間前に埠頭で原因不明の陥没事故が起きたの。深さ10メートルもの巨大な穴の中に倉庫が崩れ落ち、多数の死傷者が出たのよ」
――あの忌まわしい記憶が脳裏に蘇る。
あの夜、あたし達は月華に拉致され暴行を受けた……。
倉庫の中には、瀕死の状態で美濃が横たわっていた……。
「……母さん!美濃は!美濃も倉庫にいたんだ。美濃は助かったんだよね!」
母は泣きながら、首を左右に振る。
「美濃は……今も行方不明なのよ。遺体も発見されていないわ。もしもあの場所にいたのなら、生存の可能性は極めて低いそうよ……」
「……そんな」
あたしはベッドの上で、母と一緒に声を上げて泣いた。
――美濃を殺したのは、あたしだ。
あたしが、美濃を殺した。
母は当時の事故現場の様子を話してくれた。あの事故で、対立していたあざみも月華のメンバーも、雷竜会の男達も死んでしまったと理解したが、心のどこかで、
何故なら……
母は3人のことを、何も話さなかったからだ。
陥没直前に3人が逃げ延びたなら……
美濃も……一緒に逃げたのかもしれない。
――そして……
信也も…………。
検査の結果、あたしは軽い気道熱傷を起こしていたものの大きな外傷もなく、1週間もの間、どうして発見されなかったのか、火災も起きなかったのにどうして気道熱傷を起こしているのか、医師は大層不思議がったが、その原因が夢で見た本能寺の火災と結びつくことはなかった。
頭は混乱し、本能寺で生き別れた信長の声が、今も鼓膜から離れない。
――とてもリアルな……
夢だった……。
「あなたに伺いたいことがあります。
実はあの事故で意識不明となった重症患者が1人いるのですが、先ほど意識を取り戻しました。
事故のショックから錯乱し、意識障害を起こしていて、自分の名前も住所もわからないのです。生存者はあなたしかいないため、面会していただけませんか?」
男性が1人……
生きている!?
あの時、現場にいた男は……
雷竜会の2人と、信也……。
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