SHOCK 15

紗紅side

154

 上様が地下通路に入られたことを見届け、光秀に声を掛けた。


「お待ち下さい。明智殿……」


 光秀はゆっくりと振り返る。


「紅殿は殿方ではなく、於濃の方様の妹君であらせられると伺いました。於濃の方様の妹君ならば、明智光秀の妹も同然。だが、明智軍の兵に見つかればただでは済むまい。そなたも早く逃げるのだ」


「於濃の方様は……」


「於濃の方様は無事でございます。天王山の麓山崎にて匿っております。どうかご安心下さい」


「明智殿、姉のこと、どうか宜しくお願い申しあげます。どうか……明智殿もご無事で」


 光秀はあたしに優しい眼差しを向けた。


「於濃の方様を悲しませることはしないと申したであろう。紅殿、美濃からの伝言じゃ。『信忠も必ずや助けるゆえ、紗紅も生き延びよ』とな」


「……美濃」


 美濃の言葉に涙が溢れ出す。

 光秀はあたしに背を向け、大声でこう叫んだ。


「織田信長は燃え盛る殿中にて自害!我が軍の勝利なり!兵を引き上げよ!撤収じゃー!」


「「おー!」」


 本能寺周辺より、明智軍の歓声が上がる。


 バキバキと音を鳴らし、柱や天井が燃え上がる。


 あたしは隠し扉がある殿中に引き返すものの、すでに周囲は火の海となり、天井から火の粉が舞い、白い煙が充満し前方が見えない。


「……こほ、……こほ」


 炎の熱と煙に噎せながら、這うように隠し扉に手を掛け、狭い通路に転がり落ちた。


 ――と、同時に、ドンッと地面が突き上がり縦揺れがした。ぐらぐらと激しい横揺れとなり壁に亀裂が走る。目の前の通路が陥没し道を絶たれる。


 ――地震……!?

 それとも……本能寺の地下にある火薬庫が爆発……!?


 隠し扉の入口から煙が流れ込み、呼吸することもままならない。


『紅!紅はどこだー……!』


 遠くから、信長の声がした。


「……こほ、こほ。上様……」


『すぐに助けに行く!そこで待っていろ!動くでないぞ!』


「……なりませぬ!上様は早く外へ!俺も直ぐに……。直ぐに……」


 再び、ドカンッと大きな揺れが起こった。


『……紅!……紅!』


 ――愛しき人の声が……


 だんだん小さくなる…………。


 視界は白い煙に覆われ……


 もう何も見えない…………。


『さく―――……』


 最後に鼓膜に届いた声は……


 あたしの……名前だった……。


 ――信長様……


 あたしの名前を呼んでくれたんだね。


 「のぶ……なが……さま……」


 爆発音とともに、天井が大きな音を立て崩れ落ちた。

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