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「蘭丸ー……!」
火の粉を浴びながら、狂ったように泣き叫ぶ紅を抱き止める。
槍を振り上げた
「上様―!」
紅はわしの楯となり、安田国継に木刀で立ち向かった。
――その時、殿中の外で男の怒鳴り声がした。
「安田殿、織田信長の首はこの明智光秀が討ち取ると申したであろう。織田軍の援軍が本能寺に向かっておるやもしれぬ。今すぐ兵を撤収せよ!」
「明智殿……、畏まりました。皆の者、撤収じゃー!」
メラメラと燃え盛る殿中の入口に、明智光秀が姿を現す。振り上げた刀は血に染まり、光秀の瞳には赤い炎が燃える。
蘭丸を殺された無念さから、思わず声を荒げた。
「明智光秀め!よくも!蘭丸を!」
明智光秀は振り上げていた刀を鞘に収め、このわしを見据えた。
「この度の謀反は上様へ苦言を呈したまで。上様の振る舞いはあまりにも常軌を逸するものでございます。このままでは、わしが謀反を起こさずとも、いずれ羽柴秀吉や徳川家康の手により、そのお命を奪われていたことでしょう」
「明智……殿……」
紅はその言葉に目を見開く。明智光秀はわしから目を逸らすことなく、淡々と語った。
「森蘭丸殿や多くの家臣の命を奪ってしまったこと、上様に傷を負わせたことは、重臣を上手く操ることが出来なかったわしの不徳と致すところでございます。このような事態となり防ぐ手だてはなかった。申しわけござりませぬ」
明智光秀が、このわしに頭を下げた。
「……明智殿、もしや……」
何かを察した紅が、明智光秀に問いかける。
「於濃の方様より文をいただきました。どうすれば戦国の世が終わりを告げ、天下泰平の世が訪れるのか。日本の歴史を変えることなく、平和な世をもたらすために、日本国の未来を知る於濃の方様と相談し、このような謀反を起こした次第でございます」
明智光秀は何を申しておるのだ?
この期に及んで、気でもふれてしまったのか。
「明智殿、於濃の方様とお逢いになったのですね。これは……上様を救うための策略……」
紅は涙を浮かべ、明智光秀の側に歩み寄る。
これが、わしを救う策略だと?
「はい。戦国の世を終わらせるためにも、織田信長という天下人は、ここで自害したことにせねばなりますまい。
本能寺には外に通じる抜け道の隠し扉がございます。上様をお慕いする僧侶が本能寺の外で待っております。どうか、身分を捨て、紅殿と共にお逃げ下さい」
「……この織田信長に、本能寺で自害したこととし、落ち延びろというのか!」
「はい。織田信長という武将はたった今、ここで死んだのだ。配下の者が怪しまぬ内に、つべこべ申さず早く行くのじゃ!」
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