信長side

151

 ――“6月1日、本能寺にて茶会を開き、その夜、妙覚寺に逗留していた信忠を呼び寄せ酒を酌み交わし、信忠らが帰ったあと就寝する。”


 ――6月2日、夜明け前……。


「上様!明智光秀謀反!明智軍が本能寺を包囲、その軍勢は13000でございます!」


「蘭丸!それはまことか!弓を持て!」


 槍を手に本能寺を襲撃する兵を、弓で討ち殺す。光秀の軍勢は容赦なく火矢を放ち、織田の手勢を斬り殺した。


 蘭丸はわしの楯となり敵を迎え討つ。

 放たれた矢が蘭丸の肩を貫通し血飛沫が舞う。蘭丸は低い呻き声を上げ蹌踉けた。


「上様は中へ……!ここは蘭丸にお任せ下さい!」


「……蘭丸」


 もはや……

 これまでか……。


 このわしが、あの光秀に討たれるとは。


 ――その時、わしの目の前で敵陣相手に飛び回る黒い蝶が現れた。


 放たれた矢を木刀で跳ね返し、刀や槍をも打ちのめす。敵陣相手に勇ましく舞う黒き蝶……。


「……紅」


「上様は殿中の奥へ!蘭丸、大丈夫か。俺に掴まるのだ!」


 紅は負傷した蘭丸を担ぎ、わしとともに殿中に逃げ込む。


 本能寺はすでに炎に包まれ、メラメラと火の粉が舞った。


「紅!どうして追って来たのだ!」


「上様!俺はあなたの側を離れぬと申したはずです!」


「明智軍は13000の兵。もはや勝ち目はない」


「上様……、なんと弱気な!」


「明智光秀が討ち取りたいのは、この信長の首だ。紅は蘭丸と共に行け!何としても生き延びるのだ!」


「嫌でございます!俺は上様の側を離れませぬ!明智軍に包囲され、もはや落ち延びることなど出来ませぬ!」


「紅、わしは殿中に火を放つ。明智光秀に討ち取られるくらいなら、この本能寺で骨諸共焼き尽くし自害するつもりだ」


「……なんと」


「紅殿!ここは蘭丸にお任せ下さい!殿中には誰一人踏み込ませぬ!」


「蘭丸!その傷で戦うなど無茶だ!」


 蘭丸はあたしの制止を振り切り、殿中を飛び出し外から戸を閉めた。


「……上様」


「紅、武士としての最期を遂げさせてくれ。そなたが介錯かいしゃくしてはくれぬか」


「……介錯なんて、嫌です!上様を手にかけるなんて出来ません!」


 火の手は殿中にも迫りくる。

 廊下で蘭丸の悲痛な叫び声がし、戸が将棋倒しとなり、目の前にドスンと血の塊が落ちた。


 それは……血に染まった蘭丸だった。



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