141

「……紅!?これは……血迷うたか!?」


「……上様、一大事でございます。於濃の方様が……」


「帰蝶がどうしたのだ」


 明智光秀が謀反を企み、帰蝶がそれを阻止するために男装し安土城を出たとは、信長には言えなかった。


 もし言えば、信長は直ぐさま追っ手をやり帰蝶を捕らえ、光秀を討ち取るだろう。


 あたしと美濃が現世より戦国の世にタイムスリップしたと告白しても、信じてはもらえない。


 ――あたしは……

 どうすればいいの。


 一体……

 どうすれば……。


「紅、やっと女として生きる決心をしたのだな」


 あたしは首を左右に振る。


「これは於濃の方様がなされたこと」


「帰蝶がそなたに?」


「於濃の方様は全てご存知だったのです。俺が女であることも、上様の寵愛を受けていることも。承知の上で、俺に女に戻るようにと仰せになりました」


「……そうか。気付いておったのか」


「はい。上様、中国遠征の出兵を最後とし、俺は女に戻ります。最後のお願いです。上洛する際は、おともさせて下さい」


「……紅」


 信長はあたしを強く抱きしめた。

 女の姿で信長に抱かれるのは、初めてだった。


「帰蝶はどこに行ったのだ」


 信長の低い声に……

 信長の怒りが伝わり、体が震えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る