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「於濃の方様は……今宵は別の部屋で休まれるそうにございます」


 ――美濃……

 あなたの決意を、決して無駄にはしない。


「そうか。帰蝶が全てを知り、このようなはかりごとをするとは……」


 信長はあたしの言葉を信じ、帰蝶が安土城を抜け出したことは、知る由もなかった。


 帰蝶が居なくなったことを、多恵やお付きの者に悟らせないためにも、この部屋から信長を出すわけにはいかない。


「……抱いて」


 あたしは自分から信長にキスをせがむ。

 信長をこの場に繋ぎ止めるために……。


 信長は一瞬目を見開いたが、そのままあたしを押し倒し、赤い紅をさした唇を奪った。


 着物に描かれた黒揚羽蝶が羽を揺らし、唇から甘い吐息が漏れる。その吐息が消えないうちに、信長は何度もあたしの唇を塞いだ。


「愛しき蝶よ。なぜそのように美しいのじゃ……。なぜ歳を取らぬ」


 ――この世にタイムスリップし、長い長い時が経ったが、未来からタイムスリップした私が歳を取ることはない。


 だが、そのことを家臣だけではなく、信長も疑念を抱いていたなんて……。


「……上様に寵愛されているからでございます」


 この戦国の世で、何度信長に抱かれただろう。


 天下を獲るためなら、兄弟をも殺め死に追いやる信長。冷酷で残忍、けれどこんなにも愛おしい。


「もっと淫らな蝶になれ」


 あたしは信長の腕の中で……

 感じるままに声を漏らし体を揺らす。


 男の殻を脱ぎ捨て女となったあたしは、蝶のように美しい羽を広げる。


 重圧から心を解き放ち……

 自由に羽ばたけるように……。


「……もっと……強く」


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