136
私は光秀に手紙をしたためる。
どうか……
思い留まって下さい。
どうか……。
この煌びやかな鳥籠に隠り、羽ばたくことも忘れていたが、この私が、信長も光秀もそして我が子同然に育てた信忠も死なせはしない。
紗紅……。
あなたもきっと同じように、2人をお守りするために戦場で奮闘しているのでしょう。
光秀への手紙を書き終え、多恵に託した。
(多恵、紅殿とお話がしとうございます。他の家臣には内密に、紅殿にここに参るようにと、伝えてはくれませぬか)
「紅殿でございますか?はい。それもご内密に、でございますね。この多恵にお任せ下さい」
多恵は右手で拳を握り、自身の胸を叩いた。
どんな時も、いつも私の傍にいてくれた多恵。どんなに感謝しても足りないくらい、心強き味方……。
多恵がいたから、私はこの時代で生きてこれた……。
(ありがとう。多恵)
――その夜、紅が秘かに私の部屋を訪れた。信長とともに合戦に明け暮れる日々。その肌は小麦色に焼け、神々しいほどに逞しき武将に見えた。
「於濃の方様、ご無沙汰しております」
(紅殿、息災でなによりじゃ)
「多恵やお付きの者はいないようですが」
(人払いをしたゆえ、誰もおりませぬ)
「於濃の方様、上様は明後日上洛するそうにございます」
(明後日……。そうであるか。紅殿、近う寄れ)
「はい」
(目を閉じては下さらぬか、紅殿に新しき着物を
「新しき着物でございますか?」
(早く目を閉じよ)
「……でも」
(わらわに背を向けてもよい。早くしなさい)
「……は、はい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます