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「平手殿には敵いませぬな。於濃の方様を悲しませることは致しませぬ。直ぐさま挙兵の準備を致します。では、これにて失礼つまります」
「明智殿、ありがとうございます!」
あたしは立ち去る光秀に深々と頭を下げた。
これで……
光秀の怒りを鎮めることができた。
座敷に戻り蘭丸を呼びつけ、先ほどの振る舞いを注意する。
「蘭丸、明智殿に対する無礼は何事ぞ」
「されど、わたくしは上様の身をお守りするが役目。上様に刃向かう者はたとえどなたであろうと、阻止致します」
信長に忠義を尽くす蘭丸は、いかなる武将をも恐れない。まるで、昔のあたしのように。信長のためなら命をも投げ出すだろう。
あたしがいなくなっても、蘭丸がいれば信長も安泰だ……。
「もうよい。暫く上様と2人にしてくれぬか。誰も部屋に入れるでない。よいな」
「はい」
襖を閉め、あたしは信長に視線を向ける。信長は口角を引き上げ、あたしを見据えた。
「紅、そのような怖い顔をするでない。美人が台無しだぞ」
「上様、そのようなおふざけはお止め下さい。どうして明智殿に対して理不尽な態度ばかりとられるのですか」
「理不尽とな?主君に対する暴言。それに主君の正室を寝取ることは、理不尽ではないのか」
「……やはり、於濃の方様のことで、あのような仕打ちを……」
「本来ならば、不義密通の罪で切腹、お家断絶。紅が望むなら、そうしてもよいのだぞ」
「上様!」
「紅、わしが知らぬと思うておるのか」
「……えっ?」
信長は立ち上がり、あたしに歩み寄る。
鼓動がトクトクと早まる。
「帰蝶は蝮の姫君にあらず」
「……上様!?」
信長は何を言ってるの?
「帰蝶が嫁いだ時より、わしが気付かぬと思うたか。帰蝶は斎藤道三の娘、濃姫ではない。あの蝮のやりそうなことよ。わしに身代わりを輿入れさせてまでも、織田家との和睦を企んだのだからな」
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